637.セムセイ鉱 Semseyite (ルーマニア産)

 

 

Semseyite セムセイ鉱

Semseyite セムセイ鉱

セムセイ鉱 (塊部は硫化鉱の混合物で、概ね磁硫鉄鉱という)
-ルーマニア、ヘルジャ産

 

セムセイ鉱は鉛とアンチモニーの硫化鉱物である。板状の結晶が群生して特徴的な集合形をなすことで知られる。
楽しい2にはこの集合体の形に見覚えのあったコレクターが、秩父鉱山の方鉛鉱の表面に付いていた本鉱を認めて本邦初産の発見をなした経緯が語られている。また産出は少ないがコレクターに一定の人気があるとも述べられている。

原産地は現ルーマニアのバイア・スプリエに近いフェルゼバーニャ鉱山(Felsöbánya )とされ、ヨセフ・サンドル・クレンネル博士によって1881年に記載された。名前の由来となった人物、アンドール・フォン・セムセイ(1833-1923)はハンガリーの貴族にしてアマチュアの鉱物学者であった。広大な領地を相続したセムセイ卿は差配経営の実務が嫌で嫌で仕方なく、博物学の研究に生きる喜びを見出していたという。特に深い関心を寄せたのが地質学で、それはそれは素晴らしい岩石・鉱物コレクションを築き、ハンガリー国立博物館の収集を資金面で大いに支援した。
彼の名はセムセイ鉱のほかに、鉛とアンチモニーと硫黄とさらに銀を含む鉱物アンドール鉱としても顕彰されているのだが、それはハンガリー科学界の偉大なパトロンに対する学者方の感謝の表れであった。
ちなみに日本では、アマチュア鉱物学者だった櫻井欽一や粘土鉱物学者の須藤俊男が姓名に因む2種の鉱物名を贈られている。

金属鉱物にはままあることだが、セムセイ鉱と同じ成分で組成が少しずつ異なるいくつかの鉱物が存在する。Fülöppite、Plagionite、 Heteromorphite、 Rayite は同じグループに分類され、性質が似ているので相互の識別は困難であるという。
セムセイ鉱は300-350℃にて熱水中から晶出すると考えられている。共産鉱物には車骨鉱、毛鉱、閃亜鉛鉱、石英、ジンケン鉱などがある。写真の標本はルーマニアのヘルジャ産で、今のところ本鉱標本の最良の産地と目される。

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