639.ジンケン鉱 Zinkenite  (ボリビア産)

 

 

ジンケン鉱 -ボリビア、オルロ、イトス産

 

Brauns/Spencer の鉱物界に Zinckenite という鉱石が紹介されている。「鉛の硫化塩で、長手方向に条線の発達した針状結晶が放射状に集合したり、ブラシのように密集して産する。鋼灰色で金属光沢をもつ。輝安鉱に似ているが、より硬く(硬度3)、重たい(比重5.3)。また輝安鉱と違って、へき開を持たない。成分は鉛35%、アンチモニー41.7%、硫黄23.3%。輝安鉱や車骨鉱を伴って、ハルツのWolfsbergに産する。ほかの鉛の硫化塩と同様(資源的価値はなく)科学的な興味にとどまる」、と。

スロバキアで発行された図鑑「鉱物」のドイツ語版(1991)には、Zinckenit と載っていて、組成 6PbS・7Sb2S3 とある。
一方、Dana 8th にはZinkenite という鉱物が載っている。組成Pb9Sb22S42 、原産地はハルツのWolfsberg とあるから同じ鉱物と考えていいのだろう。もともと英語で書かれた Danaには Zinkenite はドイツ人の鉱物学者 J.K.L.Zinken(ヨハン・カール・ルードヴィヒ・ツィンケン/1798-1862)に因んで 1826年に記載された(ということは氏が弱冠28歳の頃だ)とあるが、それならどうしてドイツ語で書かれたbranus の本や、2番目の本で Zincken という表記になっているのだろうと訝しく思う。この学者さんの名は本来  Zincken と綴るのではないか。鉱物名の表記はバリアントを許容するものだろうが、やはりZinckeniteとするのが本筋ではなかろうか?
ところがチェコで発行されたMinerals and their Localities (2004)には Zinkenite Pb6Sb14S27 と載って、zinckenite は誤記とはっきり書かれているのだから困る。組成の方も素人にはどの配分が正しいのやら判断しようがない。

画像はボリビア産。現在入手が容易な標本はボリビアのオルロにあるサン・ホセやイトスなどの鉱山に出たもののようである。オルロはアンデス山中標高3700mにある鉱山町で、17世紀頃まで銀が掘られていたが、その後鉱脈が乏しくなって、錫を目的に採掘されるようになった。イトス鉱山は1985年まで操業が続いて閉山したが、その後もこのエリアでの採掘は続いているようで、上の標本が閉山したイトス鉱山のものかそうでないかは分からない。

ジンケン鉱と称される標本には注意が必要で、ウェブショップなどで、実は毛鉱だとかサハロフ鉱だとか、もっと別の鉱物だとか、さまざまな主張を目にするので困る。私としては、この標本をショーに持ってこられた、ボリビア産が得意の、かの人柄のよい地質学者兼標本商さんの眼力を信じたいところ。
それにしても、いろんな意味でよく分からない鉱物である。

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