640.円筒鉱 Cylindrite (ボリビア産) |
シリンダー(円筒)状の結晶をなすためシリンダー石という。和名は円筒鉱または円筒錫鉱。筒状結晶の断面は上の標本で分かる通り円形で、タマネギの皮のように薄い層が重なっている。その層はよく観察すると年輪状ではなく、螺旋状であるという。硬度2〜2.5と軟らかく、へき開は完全。うまく押しつぶすと、層は葉片状または貝殻状に剥がれるそうだが、例によってそんなことはしない。
鉛、錫、鉄、アンチモンの硫化物である。錫を含む鉱物は案外珍しく、資源として多量に産するのは錫石(Cassiterite)だけだ。コレクターが悦んで集める錫鉱物に、黄錫鉱、フランケ鉱、ティール鉱、カンフィールド鉱、ストークス石、そしてこの円筒鉱などが知られているが、いずれも希産。
原産地はボリビアのポーポーで、1893年に記載された。鉱物書によるとシベリアにも産するそうだが、市場でお目にかかる標本はまず原産地のものである。
上の標本はフライベルク鉱山学校からの放出品で、二次大戦前頃に収蔵されたものらしい。下の標本は市場でよく見るタイプで、おそらく最近採集されたものだろう。円筒結晶が放射状に広がっているところが、そして外側にいくほど円筒の径が大きくなっているところが面白いと思う。円筒鉱に似た晶癖を示す鉱物は、少なくとも肉眼レベルでは例がなく、コレクター伏し拝む所以である。
補記:ボリビア、オルロ地方のポーポー(プーポー)は円筒鉱のほぼ唯一の産地で(近年、同じボリビアのシグロXX鉱山からも風情の違った標本が出ているが)、この町のサンタ・クルズ鉱山のものが
1893年に最初に報告された。次いで町から南に 7km
のトリナクリア鉱山産が知られた。ほかにサン・フランシスコ鉱山、ロザリオ鉱山、モンセラト鉱山からも報告があり、希産種ながら、ポーポー近隣ではそれなりに産出の見られる鉱物のようだ。
サンタ・クルズ産は 1990年代前半にミニチュアサイズの品が出回った時期があり、次いで
95年にボナンザがあって、2-300kg程度の標本が収穫された。従って、古典標本ながら愛好家の間にはそれなりに行き渡っていると思しい。楽しい図鑑2に取り上げられ、「傑作」、「鉱物界の異端児」(鉱物のイメージからかけ離れた、円筒状の構造を持つから)と評されている。