671.エピディディム石 Epididymite (カナダ産)

 

 

Epididymite エピジジム石

エピディディマイト(無色/双晶)、菱マンガン鉱(ピンク)、エジリン(黒) 
-カナダ、モンサンチラール産

 

エピジジム石はユージジム石と同じ成分の鉱物だが、単斜晶系のユージジム石と異なり、 斜方晶系の結晶構造を持っている。原産地はグリーンランドのナルサルスクで、ユージジム石に少し遅れて1893年に記載された。その名も (ユー)ジジム石の近縁種という意味である。もっとも当時はまだX線が発見されていないから、厳密に構造云々というのでなく、自形結晶が異なった形を示すという観察に拠って種名が定められたと思われる。
今ではだいぶ古い本になってしまったが Dana 8th(1997)に、結晶形は「繊維状、針状、刃状、柱状だが、多孔質塊状で産することもあり、ときに等辺ブロック状または擬六角形状…」とあり、こうなるとユージジム石との区別はなかなか難しいものがあるのではないか。
実際マラウィ産の、煙水晶の中に細針状〜繊維状の白色結晶が含有された標本が出回っているが、たいてい「ユージジム石 - エピジジム石」と、近年流行の2種名併記ラベルがついている。たぶん形を見ても種名は特定できないよ、ということであろうな。
画像の標本はカナダのモンサンチラール産だが、ここは小ぶりながら美しい双晶を出すことで知られている。Dana 8th は、カナダ産は1cm、グリーンランド産は2cm、(マラウィの)ゾンバ産は6cmに達する、と記述しているから、サイズではやはりマラウィ産に軍配が上がるようである。
グリーンランド産の原産地標本は稀にみることがあるが、人気とレア度が相反しているのか異常な高値で、私なぞは、「まああ、ご立派ですなぁ、はっはっはっは」と笑いながら腰くだけに立ち去るしかない。

No.670に鉱物標本店という存在が、私の前には営利一辺倒の商業店でなく、標本はタダの物品をこえて「世界への扉」として現れていた、と書いたが、そういう心象風景を主張する理由のひとつは、特に気に入っていたあるお店の標本室には特別な空気・光があった、とどうしても思われてならないからである。
そのお店というかお家は昭和の香りがする木造家屋で、一室の一方の壁一面に木製の標本棚が設えてあった。引き出しの取っ手を引くと、紙製の小箱に収めた標本がぞろぞろと姿を現す。午後の日差しが擦りガラス越しに届くと、やわらかな光が石たちをあかるく照らして、結晶をきらきら光らせる。するとなんという魔法か、石たちはこの世のものでない美しさを帯び、実に幸せそうに微笑んでいるように見えて、平和な気が部屋いっぱいに満ちるのであった。
そこで魔法の雰囲気を持った石をひとつ、財布をはたいてもらい受けて帰るのだが、我が家の書棚においた石は、数日は光に浸っているのだが、やがて色あせ、ひと月経つうちにくすんでしまう。お前はあの部屋にいたときの方が幸せそうだったね…と私は悲しい思いがするのであった。

cf. No.420

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