673.エルピド石 Elpidite (ロシア産ほか) |
エルピド石はナトリウムとジルコニウムの水和ケイ酸塩で、Na2ZrSi6O15・3H2O
の組成を持つ。
フリンクがライツェン・コレクションを調査し(2種の新鉱物を記載し)た同じ年、リンドストレームとノルデンシェルトはこのコレクション中に第3の新鉱物を発見した。それがエルピド石である。
彼らは本鉱にギリシャ語の「希望」に由来する名を与えたが(1894年記載)、こんな珍しい鉱物が見つかったコレクション、あるいはその(未知の)産地にはおそらく他にもさまざまな希産鉱物が眠っているだろう、との期待が抱かれたからだった。いわば、未知の土地(テラ・インコグニタ)への憧れ、である。原産地はいうまでもなくナルサルスク(ナルサルスアーク)で、この地には比較的広範囲で見つかるという。
自形結晶は細柱状(羽根状の集合)を示すことが多く、サイズは通常数センチ以下で小さい。ときに長さ10cmに達するが、大きなものはたいてい不完全である。緻密なフェルト状のごちゃっとした塊になっていることもあり、そんな部分と自形結晶とが共存している。
カザフスタンでは30cmサイズのものが記録されている。カナダやロシアの各地に分布する閃長岩ペグマタイトにも産し、モンサンチラール産は短波紫外線で淡緑色の蛍光を示す。いったいこの種の希産鉱物は昼光下で白色〜淡色の地味なものが多く、また塊状であったりするので、しばしば識別に苦心する。そんなとき蛍光性が手がかりになるとありがたい(例えばグリーンランド産のベリリウム方ソーダ石なんかもそうだ)。Dana 8th
は、鈍い青色のカソードルミネッセンスを示すものがある、としている。
ちなみにエルピド石のナトリウム成分をカルシウムに置換した鉱物がモンゴルのカーン・ボグデン山地で発見され、1973年にアームストロング石の名で記載された(この産地はエルピド石も出す)。アポロ11号の船長に献名されたのだが、どういう関わりか知りたいところである。ガガーリン石の向こうを張ったものだろうか。
もちろん月の石ではない。しかしエルピド石の姉妹種に、月という未知の土地へ最初に足をついた人の名がついたのは、偶然にしても面白い符号といえよう。
cf.イギリス自然史博物館の標本(アームストロング石/モンゴル、チャーン・ボグド産)