674.ベリリウム方ソーダ石ほか Beryllium Sodalite (グリーンランド産)

 

 

Beryllium Sodalite aca Tugtupite ベリリウム方ソーダ石

Beryllium Sodalite aca Tugtupite ベリリウム方ソーダ石

Chkalovite Tugtupite チカロフ石 タグタップ石

ベリリウム方ソーダ石(タグタップ石)、チカロフ石、方沸石ほか 
−グリーンランド、イリマウサアク、タセック・スロープ産
中段:長波紫外線による蛍光
下段:短波紫外線による蛍光

 

鉱物コレクションには特定産地の標本を集める行き方がある。他の土地に得難いさまざまな希産種を出す産地であればそれらを網羅的に、特級クラスの美結晶を出す産地であればその種の、やはり他に得難い一群の標本を、というのがポリシーだが、グリーンランドはそんな対象のひとつとして知られており、世にグリーンランド・フリークと称するコレクターが、数はそんなに多くないにせよ、ちゃんと存在している。
というのもこの巨大な島(の南部)は、ひとつにはロシアのコラ半島やカナダのモンサンチラールと並んで、霞石閃長岩ペグマタイトに産する希少種のメッカだからであり、またひとつには海に囲まれ氷に閉ざされた、(一般的な意味合いで)文明圏から遠く離れた孤絶の地であることから、標本を採集する機会自体がまず得難いためである。つまりグリーンランド産の標本には、鉱物学的な面での希少性と、地理的事情からくる希少性の双方が具わっているのだ。
また思うに、極寒の氷の土地にして(この夏はその永久氷がすべて融け出したとのニュースがあったが)、一般的な旅行目的地からほど遠い秘境たるグリーンランドは、厳しい自然に洗われた「テラ・インコグニタ」へのエキセントリックな憧憬をそそりつつ、「緑の土地」という逆説的な名称が彷彿する理想郷のイメージを倍音として響かせ、標本コレクターの嗜好をひそやかに牽引しているのに違いない。

この画像の標本は、グリーンランド産鉱物を専門的に扱うヨーロッパの業者さんが採集されたもの。そんな業者が存在すること自体、奇蹟のようなところがあるが、彼らにしても採集は年に一度きりのイベントである。短い夏の間にグリーンランドに赴き、チャーター船を駆って産地付近にキャンプを張り、1ケ月ほど採集に明け暮れる(地球が温暖化すると、もう少し採集期間も長くとれるのかもしれないが…)。
そうしてともかく集めた岩塊を詰めた袋を携えて帰郷し、あとの長い一年を分類やトリミングに費やして、支度のできた石を少しずつネットショップと eBay とで売られている。
No.673に述べたが、こうした塊状の石はただ通常光下で眺めていてもなかなか素性を伺うことが出来ない。たしかによく見ると点在する白色のポッチの中に小さな冴えた赤色のシミがあるのに気づく。ということは、この部分はタグタップ石なのだろう。といっても全体にはほとんど白色だから、「となかい(タグタップ/ツグツップ)」の血、または鼻を連想させるこの名はそぐわない。発見された当初の名、ベリリウム方ソーダ石 (Beryllium Sodalite) と呼ぶことにしようか。しかしそのほかの部分がどんな鉱物で出来ているのかはよく分からない。
そこで紫外線ランプをあててみるのである。ベリリウム方ソーダ石は短波UVで鮮血のように赤く、長波UVでは「闇の中のオレンジ」のように光る。だが、見よ、石はさまざまな色の蛍光を発しているではないか。それはこの塊の中に複数の鉱物種が混じっていることの証(あかし)である。
かくて業者さんはその種別を述べる。白く光るのはチカロフ石、青白色に光るのは方沸石と。(業者さんは濃い緑色の蛍光もまた方沸石という。文献によると、モンサンチラール産の方沸石は短波UVで局部的に明るい緑色に、またコロラド産は長波UVで緑色に光ることがある。しかしこの標本の緑色の部分の多くは微量のウラン(ウラニル)による可能性もある)
極北の曇った寒空の下で、生気に乏しいくすんだ灰色や灰緑色に埋もれた岩塊。その石を割って、UVランプをあてたとき初めて現れる、オーロラのような美しさ。ランプがなければ、おそらく永久に気づかれることのなかった美。それをまのあたりに楽しめるのは、鉱物愛好家ならではの特権といえるだろう。

チカロフ石 (Chkalovite) は、ロシアのコラ半島ロボゼロ・マッシフで発見された種で、モスクワからアメリカのバンクーバーに至る極圏ルートを初めて無着陸航行したロシア人の飛行士、ヴァレリー・パブロヴィチ・チカロフ(1904-1938)に因んで 1939年に記載された。グリーンランドのイリマウサアクやカナダのモンサンチラールにも産出するから、いかにも極圏の石にふさわしい名前である。ナトリウムとベリリウムの珪酸塩で、組成式 Na2Be(Si2O6)。ベリリウム方ソーダ石 [Na4(Al3Si3O12)Cl] に随伴することに、なんとなく納得する。
通常光下・肉眼での見分け方を標本商の I さんに教えてもらった記憶があるが、今思い出せないので(自分では見分けられなかった)、いずれメモが出てきたら補足したいと思う。
通常光下では白色、ガラス光沢、どことなく油脂を思わせる感じを帯びる。ロボゼロ産は短波・長波UVとも白色蛍光し燐光性をもつ、と報告されている。

補記:航続距離12,000km を超えたチカロフの上記の飛行は 1937年に達成された。1938年、彼はソ連邦英雄の称号を贈られたが、同年暮、試作飛行機の初飛行中の事故によって死亡する。チカロフ石が記載されたのはその翌年になる。

補記2:発見以来、長く方ソーダ石の亜種として知られていたが、現在はベリリウム珪酸塩としてヘルビン・グループに分類される独立種とされている。(2019.10.8)

cf.イギリス自然史博物館の標本(チカロフ石 イリマウサーク、タセック・スロープ産)

cf2.カメレオン・ソーダライト。2001年、イリマウサークのある場所で(産地は秘されている)採集された方ソーダ石は面白い性質を持っていた。紫外線を照射すると、オレンジ色と緑色、標本によってはさらに白青色の3色の蛍光を示したのだが、またテネブレッセンス効果も持っていた。照射前にはくすんだ緑色をしていたのが、照射後には濃い紫色になっていたのだ。標本によるが、その色は数分から数時間の間持続し、その後また元のくすんだ緑色に戻った。またよく観察すると、紫外線の照射中にオレンジの蛍光色の調子が変わり、最初のうちは明るいオレンジ色だったのが、やがて錆びたようなオレンジ色になるものもあった。その種の標本は通常光下でくすんだ緑色、紫外線を当てると、明るいオレンジ色、やがて錆びたオレンジ色、そして照射後通常光下では紫色になったのだ。採集者はこれを「カメレオン・ソーダライト」と呼んで市場に問うた。 No.682 ツグツープ石

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