17.亜鉛孔雀石 Rosasite (メキシコ産) |
ドイツ、フランクフルトの駅前通りに、立派な構えの宝石店があった。ショーウインドウには超一級の宝石鉱物の標本が、並べられていた。それらは、宝飾品の台座がわりに使われていて、淡青色の見事なアクアマリンの結晶が生えた、カボチャくらいある白色石英のでっぱりに、指輪やらネックレスが、さりげなくひっかけてあるといったふうである。
数々の宝石たちと美しさを競う、トルマリンやエメラルド、ロードクロサイトの素晴らしい結晶標本。これらはあまりに貴重なため、売り物ではなかったけれど、その店では、宝石と一緒に、もっと普通の鉱物標本も扱っていて、さすがドイツは違うなあと感心したものだ。
店の標本引き出しに、当時の私には見慣れない鉱物があった。黒い母岩の表面に、鮮やかな青緑色の鉱物がつき、その上を無色透明の別の鉱物が覆っていた。娘さん(母娘で店番をしていた)が、これはあまり知られていない珍しい鉱物のひとつで.....、と紹介してくれたので、記念に買って帰った。それがローザサイト、亜鉛孔雀石だった。
写真の標本はその時のものではないけれど、黒い母岩にタフタのような毛状のローザサイト(球果)、透明で美しい異極鉱の結晶が散らばって、一幅の絵のようだ。
補記:孔雀石 Cu2(CO3)(OH)2のCu2+イオンは亜鉛、マグネシウム、ニッケル、コバルトなどで置換されることがあり、亜鉛の優越したものが亜鉛孔雀石に相当する。ただ両者間の組成には連続性がないと考えられている。 cf. No.793