63.リチア輝石  Kunzite   (アフガニスタン産)

 

 

私は3つの方向で光の吸収具合が違うので、眺めようで違う色にみえます。

クンツァイト & インジコライト−アフガニスタン、ヌーリスタン産

 

私の聞いているところでは、リチア輝石の産地はイラン国境近くの土地で、山の中から少数民族が採集してきたものを、年に1、2回西洋人のバイヤー達が買い取って標本市場に流すのだという。最近は政情不安のため、なかなか奥地まで辿りつけないそうだ。

皮肉な言い方で申し訳ないけれども、ちょっといい鉱物は、いつも非西欧文化圏の、交通不便な奥地で、少数民族が、彼等だけしか知らない産地から、採集してくるもののような気がする。珍しくも貴重な鉱物は、そういうところで発見されなければならないはずだという私達の願望が、神話を作り上げるのだろう。裏山の金は誰も有難がらない。

リチア輝石は美しい。防弾ガラスのような硬い煌きの内に、冷たく明るい淡赤紫色が凍りついている。写真の標本には、珍しいインジコライト(藍色電気石)が3本入っている。別々に結晶して成長しているうちに、リチア輝石の方ばかり、どんどん大きくなっていって、インジコライトが取りこまれてしまったかに見える。リチア輝石の結晶にはたいへん大きいものが知られている。むかし、京都のある石屋さんに巨大な結晶が飾ってあったのを見た。縦横数十センチ以上の板みたいな透明な石で、ほとんど窓ガラスであった。

cf. No.829 (スポジューミン、リチア雲母、インジコライト)

 

追記:アフガニスタンのヌーリスタン州や隣のクナル州産と標識された宝石鉱物の標本が市場に出回るようになって久しい。これらの州はパキスタンとの国境付近に位置して、西のイラン国境とは反対の東の辺境(山岳)地帯にあたる。上の標本とは別の、やはりヌリスタン産のクンツァイト標本を持っているが、カンティワ(峡谷)の地名があり、ネットを調べればとんでもない山の中が示される。どう考えてもカブールかパキスタンのペシャワールあたりで買い付けされて西洋圏に回ってくるものと思われる。
20年前にはヌリスタンと言われたって、それがアフガニスタンのどのあたりにあるのか、市井の一般人にぴんとくるはずもなかったのだから、なんでも調べのつく時代はありがたい。ただ、その分ロマン(妄想)の余地は減じた。あまりいい加減なことばかりも言ってられなくなった。

ヌリスタン地方のリチア輝石(スポジューミン)が西洋圏に現れ始めたのは 1970年代末という。ダーネ・ピャール村近くのマウィ(Mawi)鉱区に緑色、青色、ピンク色、黄色、無色などさまざまな宝石質の結晶が出て、その大きさは60cmに及んだ。品質は従来知られていたカリフォルニア産やブラジル産のクンツァイト(宝石名)を凌いだ。宝石質でない不透明な結晶は長さ 2m、420kg という巨大なものが記録されている。
80年代には10-40cm サイズの標本が市場に見られ、90年代に入るとさらに品質が上がって、鮮やかなラベンダー色の結晶も加わった。マウィのペグマタイトからは現在も良質の標本が採集されているようで、米国の鉱物ショーにパキスタン人業者が持ち込んでくるという。また2000年代以降はダラ・イ・ペクと標識された母岩付の標本も出回るようになった。どうも時が経つほどにいいものが出回ってくるようだ、と噂されている。(2018.8.15)

追記2:クンツァイトが最初に発見されたのはカリフォルニア州サンディエゴ北東のパラにほど近いヒリアート山地(ホワイト・クイーン鉱区)で 1902年のことだった。
発見者の F.M.シックラーは変種のトルマリンと考えて、12月にサンプルをティファニー宝石店の J.F. クンツ博士に送った。クンツはこれを調べてスポデューミンと判定したが、すでに知られていたヒッデナイト(緑色宝石種のスポデューミン)とは著しく趣きを異にした。
翌年この宝石を報告した時、クンツは「他のスポデューミンとの間に顕著な相違を認めるならば、新しい名前をつけるのが宜しかろう」と指摘し、これを受けたチャールズ・バスカビルが、クンツァイトの名で論文を書いた。一名、カリフォルニア・アイリスという。
当時ティファニー宝石店はやや東方のメサ・グランデにあるヒマラヤ鉱山産のピンク・トルマリンを中国向けに輸出していたが(cf. TU2)、パラでは 1903年にトルマリン・クイーン山地で大鉱区が発見され、翌年から夥しい量のピンク・トルマリンを産出する。ティファニーも勿論テコ入れした。

ヒッデナイトは、クンツァイト発見の 20年ほど前にノースカロライナ州で発見された緑色/黄緑色の透明石で、当初は透輝石と考えられたが、スポデューミンと分かり鉱山監督の A.E.ヒドゥン (Hidden)に因んで宝石名が与えられた。
クンツァイトは 3価のマンガンイオンが、淡緑色のヒッデナイトは 4価のマンガンイオンが、またエメラルド緑色のヒッデナイトはクロムやバナジウムイオンが発色に関与しているとみられる。
4価のマンガンイオンはかなり不安定で、日光の刺激で容易に価数を落とす。そのため淡緑色のヒッデナイトは退色性が顕著だという。
クンツァイトも退色しやすい宝石で、あまり日光にあてない方がいいとされている(モノによって程度は異なる)。
アフガニスタン産のスポデューミンに、掘り出した時は青色や緑色をしているが数日で退色するものがあるという。これを沸騰した湯に入れて加熱してから数日間日光に曝すと、きれいなピンクやライラック色になるそうだ。ということは、この種のクンツァイトは日光歓迎なのだろう。
なお宝石に用いうるヒッデナイトはクロムまたはバナジウム発色のもののみ(狭義のヒッデナイトはクロム発色タイプ)。(2020.5.30)

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