68.ラブラドライト  Labradorite   (マダガスカル?)

 

 

「人生はラブラドライトの如し。その境地に至りて、美しく輝く」  エマーソン

ラブラドライト (曹灰長石)
-産地不明(おそらくマダガスカル)

 

地元で採れるちょっと変わった石に、地名や、その特徴からヒントを得た愛称をつける例は珍しくない。だがその名前は、たいてい「正式な」鉱物種名ではないので、専門書を開いたとき、何と言う名前で引けばいいのか戸惑うことがある。例えば、私たちの頭の中では、ある石は「焼き餅石」であって、断じて「緑れん石」ではないのだが、索引には焼き餅石は載っていないといった状況だ。

長石グループの一種である斜長石のうち、ある成分構成のものをラブラドライトと呼ぶ。その中のあるものが、ある角度から見たとき、写真のように蝶の羽のように美しく輝く性質を持っている。宝石(貴石)として研磨されることもあり、鉱物界では、なかなかの名士だ。Blue Feldspar (青長石)の雅称もある。
ところで、この石、カナダのラブラドル半島で発見されて以来、ラブラドライトとして親しまれているが、これはどうも正式名称じゃないらしい。

鉱物種名の参照表としてスタンダードな、マンダリーノ氏のグロッサリーを開くと、95年版(第7版)では、独立種扱いされていないものの、一応、「L」の項目にラブラドライトの名前があって、「プラジオクレース(斜長石)の項 参照」とある。ところが、最新の99年版(第八版)では、はずされてしまっている。鉱物種の分類基準が大きく変わったためらしいのだが、プラジオクレース自体、どこかへ消えて行方が知れない。
こんな有名な石が、いや石の名前が継子扱いされる時代がくるなんて、アマチュアとしては奇妙なことよ、と言うほかない。⇒cf.No.432 

ちなみに、ラブラドルとは元来ポルトガル語で農夫のこと。農夫石、…いや、それはちょっと…。

補記:現在(2015)は、曹長石 (Albite) と灰長石(Anorthite)とを端成分とする斜長石の中間的な鉱物という位置づけ。
補記2:ポルトガル人航海者ジョアン=フェルナンデスは、アゾレス諸島生まれの小農の出だったので、「ウ・ラブラドル」(農民)と呼ばれていた。1498年のカボット親子の北西航路探検の航海士を務めて、北米大陸北東部の岩だらけの海岸に達した。そこは彼に因んで、テラ・ド・ラブラドルと名づけられた。

 

(ガブロ/マダガスカル産)

この写真は、「ガブロ」と呼ばれる、はんれい岩の一種で、紫がかったピンクの部分が、ラブラドライト、黒緑色の部分は異剥輝石である。上段に、もってまわった表現でラブラドライトを紹介したが、この例から、ラブラドライトがすべてブルーメタリックに輝くわけではないことが知れる。(ガブロは「ハンレイ岩」のこと。)

ガブロ(ギャブロー)の名はイタリアの工芸家が使っていた石材 gabbro からきたもので、もとは蛇紋岩や輝石からなる特殊な火成岩を指した。アウイやド・ソシュールはユーフォタイト euphotite と呼んだ。ラテン語の glaber (滑らか)のもじりという。1810年にフォン・ブッフが岩石名に採用したが、後に別種の岩石(斑糲岩)を指すようになった。和名の糲(くろごめ)は玄米のことで、斑糲岩とは粒状で黒い斑点のある岩石の意だそうだ。白い斜長石と黒い輝石とが白黒の斑点模様をなすことに因む。
明治初期には「飛白石(カスリイシ)」とも訳された。

No.163No.200、 No.432   No.900

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