900.ペリステライト Albite var. Peristerite (カナダ産) |
青色系の強い光彩効果を示す長石に、カナダのラブラドル地方から報告されたラブラドライトがある。15世紀の終わり、イギリスのカボット父子らが航海中に発見した土地で、アゾレス諸島(後に優秀な鯨取りを輩出したことで有名)生まれの船乗りフェルナンデスのニックネームに因む。cf.
No.68
補記
古くから知られ、18世紀後半にクロンステットやウェルナーが鉱物誌をまとめ始めた頃にはすでにその名で呼ばれていた(ラブラドール・シュタイン)。この地に伝道所を開いたモラヴィア兄弟団の宣教師ヴォルフ師が
1770年頃に持ち帰ったものという。
同じカナダのオンタリオ州やケベック州には淡灰〜暗灰色の地に同様の光彩効果を示す長石が出る。ペリステライトという。最初に発見されたのはケベック州のパース付近(南西に10キロほど)で、地元の鉱物愛好家
J.ウィルソン、A.F.ホームズらが採集したものだった。二人はエジンバラ大学に学び、カナダで医師を開業する傍ら、余暇には近隣の鉱物産地を巡っていたのである。
彼らはこれをイリデッセント・フェルドスパー(光彩効果のある長石)と呼んで、グラスゴー大学の
T.トムソン博士に送った。博士は化学分析を行い、長石にしては珪酸分が多くアルミ分に乏しいと判断し、ペリステライト
Peristerite の名を与えて 1842年秋のグラスゴー博物学協会の会合で報告した。ギリシャ語のペリステリア
peristeria:鳩に因んだもので、その心は青色の光彩を鳩の首回りの羽毛の輝きに擬えたのである(※カシミール・サファイヤの青色は孔雀の首の色に喩えられる)。
あいにくトムソンの見解は間違っており、長石に石英成分が混じった組織を分析していたことが後に示されたが、命名はそのまま残った。(※長石は明瞭なへき開があり、石英にはない。)
ちなみにこれに先立って、ウィルソンはパースから肉眼的な縞状組織を示す長石岩パーサイト
Perthite を発見しており、ホームズはバイタウン(後のオタワ)からバイタウン長石(亜灰長石)
Bytownite
を発見している。前者は正長石と曹長石とが層状組織を成したもので
1832年に、後者は若干の曹長石成分を含んだ灰長石で 1835年に、いずれも
トムソンが報告した。
パーサイトの名は今日、長石がしばしば示すこの種の繰り返し層状構造の代名詞となっている。
カリ長石(正長石)成分がナトリウム長石(曹長石)成分に優越するものをパーサイト、同等のものをメソパーサイト、曹長石成分が優越するものをアンチパーサイトと区分する。
この場合、曹長石−灰長石成分系の長石が示す構造はアンチパーサイトということになる。
肉眼で分からない微細なパーサイト構造は、マイクロパーサイト、クリプトパーサイトなどと層厚によって区分される。cf.
No.430
No.492
ペリステライトはラピダリーに用いられることがあり、ピジョン・ストーン(鳩石)、カナダ・ムーンストーンとも愛称される(※余談だが、ピジョン輝石 Pigeonite は産地名ピジョン・ポイントに因み、鳩との関係は間接的)。紫外線に弱い蛍光性を示す。光彩はラブラドレッセンスやムーンストーン効果(シラー)と同様のもので、特に区別されてこなかった。20世紀中頃にペリステリズム peristerism の呼称が提案されたが(1969年)、あまり普及していないと思われる。
ペリステライトは灰長石 Anorthite 成分を 2 ~19%程度含む低温型斜長石で、種としては曹長石に相当するが、生成後に低温(常温)で進行した離溶作用によって、組成の異なる2つの領域が
100nm
レベルの厚さで互層するクリプトパーサイト(ラメラ構造)となっている。一方は曹長石、一方は灰曹長石
Oligoclase で、つねに前者の層厚が大きい。(cf. No.899
頁末の区分図)
周期構造の単位が光の波長に近いために干渉格子として働くのだが、灰長石成分の多寡によって変化する傾向があり、これに伴って発現する閃光色も変化する。イリデッセンスは
An 5-12 モル%の領域のみに見られるといい、赤〜黄〜緑色のイリデッセンスは
An 5-8の領域に、青色のそれは An 8-12の領域に現れる。また An
7.5-10
の範囲ではラメラ構造が波状にうねり、散乱による白色化効果が相乗するという。
補記:同様のイリデッセンスを示すラルビカイトは同じく曹長石に相当するが、ある程度のカリ長石成分を含み、アノーソクレース Anorthoclase に区分される。