200.ラブラドライト Labradorite (カナダ産) |
ラルフ・ウォルド・エマーソン(1803-1882)は、超絶主義を唱えたアメリカの思想家で、ウィットあふれる沢山の格言を残した。
「文明とは何か? 素晴らしい女性の力だ、と私は答える。」は、名言のひとつであろう。
彼が女性だったら、「素晴らしい男性の力だ」と答えたに違いなく、この言葉は真理と呼べないものの、私としては、うむ、その通りじゃと認めないわけにゆかぬ。ゲーテは、ファウストの中で「永遠の女性が私たちを導いてゆく」と謳った。美しい女性と素晴らしい鉱物は、男共の魂を憧れで満たし、至福の意識へと誘ってやまないのである。
エマーソンには、もうひとつ有名な言葉がある。
"A man is like a bit of Labrador Spar, which has no luster as you turn it in your hand until you come to a particular angle, then it shows deep and beautiful colors."
直訳すると、「人間は、ラブラドル・スパーのかけらのようだ。手にとってひっくり返しても何の輝きもないが、ある角度に傾けるや、たちまち深く美しい彩りを現す」。
この言葉は、二通りに解釈することが出来そうだ。人間は成熟してある年齢なり境地なりに至ったとき、初めて輝きを放つのだという見方がひとつ。もうひとつは、取柄のなさそうな平凡な人間も、必ずなにか光輝く面をもっているという見方。教訓的には前者が好まれそうだが、私は後者が正解だと思っている。なぜなら、ラブラドライトは予めその輝きを隠しもっているのであり、人間もまた、なに修業することはなくとも、それぞれに美点を持っているからである。輝きを認めることが出来るかどうかは、見る人の心がけ次第ということだ。
ラブラドライトはカナダのラブラドール半島で発見されたのでその名がある。18世紀半ばにはすでに知られていた。cf.
No.900
19世紀の始め、マンドリル(アフリカに生息するヒヒ)のレリーフが大流行した時には、沢山の石が鼻の両脇のモザイクに用いられたという。
エマーソンがヒヒのレリーフを見て、この格言を思いついたのだとしたら、ずい分面白いと思うのだが、さて、事実はいかに?
補記:先カンブリア期に形成されたカナダ楯状地の東端にあって、他の鉱物をほとんど伴わない単鉱岩として巨大な岩体を形成しているという。