691.シャファージカイト Schafarzikite (スロバキア産)

 

 

schafarzikite

シャファージカイト(黒褐色) -スロバキア、マラキー、プレネク、クリツニカ産

 

No.690 で指摘したのは、我々の類にとって鉱物趣味の本質のひとつは、予測しがたい瞬間、鉱物標本に宿ったある種の神性・聖性に気づいて神秘の念にうたれること、その念に誘われて時間を超越した忘我と喜びの空間へ入り込み、恩寵を得て再び現実世界に戻ってくるということであった。
オットーの宗教概念を用いれば、標本を通して「ヌミノース
に触れる体験を持ったということであり、ひらたく言えば、標本に惹きつけられて畏怖と愛情の味わいを味わう、この世ならぬひとときが存在すると知ることである。(これを「趣味の時間」と呼ぶことも可能だ。)

さて、「鉱石抒情派」と呼んで、「鉱物抒情派」としないのはなぜか。
それは鉱石という言葉には、自然物としての石や鉱物を、人間にとってなにか価値のあるものを取り出す原素材(言い換えればプリマ・マテリア)として扱う含みがあるからである。鉱石は取り出されるべき貴重なものを抱いた物質なのだ。

エリアーデは(若い頃鉱物学に夢中になった)、石と金属とを区別して述べた。石は自然物であり、不可侵不変質な絶対的存在であるが、金属は人造物だ、と。鉱石から抽出され精錬される金属は、人間の操作によって初めて得られる物質であり、質的変化と新しい価値の創造を象徴している。この場合、「鉱石」は金属を取り出すために人間が選び出した鉱物ということになる。

一方、我々が鉱石抒情派というとき、鉱物は人間側からの働きかけによって、ある種の精神的価値 −聖性・喜び・(私に対して)隠されていた知識/世界への鍵・ロマンを醸す縁(よすが)、等々− が発見されるべき「鉱石」として聖別されている、ことを含意する。これが第二点。

シャファージカイト。鉄とアンチモンの酸化物。組成式 Fe2+Sb23+O4。1921年記載。ハンガリーの鉱物学者フェレンク・シャファルジク(1854-1927)に因む。結晶は柱状で、赤〜赤褐色〜褐色。条痕は茶色、金属光沢。へき開{110}に完全、{100}に良好。原産地標本。白色のバレンチン鉱を伴う。

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