697.ビスビー石 Bisbeeite (コンゴ産)

 

 

ビスビー石(クリソコラとプランシェアイトの混合?) 
-コンゴ、カタンガ、シャングローヴェ産

 

日本における海外産鉱物標本市場の形成時期について No.696に私見を述べたが、だいたい1980年代後半のバブルへ向かう頃にひとつの大きな節目があったと言えそうである。
TK氏が述べた通り、生活に余裕が出来て道楽のものまで買える時代になった、ということは大前提であるが、まっとうな生活を送っていた市井の一個人が突然目の色を変えて標本を追い回すようになる、そんな鉱物への開眼をもたらす働きかけが標本商さんの側から積極的に行われたこと、先駆的な蒐集家たちがそれぞれに鉱物の魅力を世に知らせる機会をもったこと、ツーソンショーやミュンヘンショーなどを通じて安定した商品供給がすでに可能になっていたこと、そしてある程度リーズナブルな値段で程度のよい品が流通しえたこと、そうしたさまざまな要素が絡み合ってのブーム到来であったと思われる。
最後の点については 1985年のプラザ合意以降の急速な円高/ドル安による恩恵が追い風となり、バブル崩壊後の 90年代にも引き続き円高が進行したこと、そしてこの時期にはロシアや中国産のハイクラス標本が(少なくとも当初は)小遣いレベルの値段で出回ったことが蒐集家層の定着を支えたのではなかったか。

定番中の定番「楽しい図鑑」(1992)に取り上げられた標本は、「見て楽しめる品質のものであるが、そうかといってひじょうに高価な標本や博物館サイズの標本は含まれていない。ふつうの人が気軽に入手できる範囲」と、図鑑2(1997)でも「本書の標本はほとんど、読者のポケット・マネーで入手可能なものである」と、標本商である著者は述べていて、読者はそんなら自分にも集められるかな…とついつい手をそめて、いつか抜き差しならなくなっているのであった。
もっとも今これらの図鑑に載っている標本がポケット・マネーで買えるのかといえば、それはかなり疑問だと言わざるをえない。よくも悪くもあの時期から20年が経過した。

画像の標本はビスビー石。かつて新宿ショーの名物標本商だったフランスのジルベール・ゴチェエ氏(1924-2006)のコレクションから。
独立種名でなく、入手した当時はクリソコラとプランシェアイト(Plancheite)の混合物だと言われていた。
今この項を書くために Mindat をあたってみると、ビスビー石は銅の水和ケイ酸塩で、若干のマグネシウムを含む。組成式 (Cu,Mg)SiO3・nH2O。アリゾナ州ビスビーのシャタック鉱山で発見され、1915年に Shaller によって産地に因んで命名されたが、記載情報は不十分なものだった。しかし半世紀後に原産地標本とアフリカ産の標本とが比較検討された結果、固有種と再認識された。ところがその後は、青針銅鉱であるとか、クリソコラであるとかの報告が続いて、IMAは登録を取り消したとのことだ。
もっともこの標本を見て、アヲハリやクリソコラだとはとても思えないのであるが。

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