755.トパーズ Topaz  (ブラジル産)

 

 

topaz

淡青色のトパーズ(天然の色) -ブラジル、ミナス・ジェライス州イタオビン産

 

No.754 の続き。
トパーズの組成式は前述の通り Al2SiO4(F,OH)2 と定義されている。ほかの元素含有による成分変動はほとんどなく、発色要因の一翼を担うとみられるクロム、バナジウム、マンガン、コバルト等の混入は概ね ppm 単位または痕跡量程度という。従って比重のばらつきはほぼ弗素(F)成分の水酸(OH)置換率に呼応する(弗素分が多いほど重たい-ただし差は僅か)
また光学的性質として、極性のある OH 成分が多いほど屈折率が上がる。これも一意的な関係があることから、へき開面を利用して屈折率α、βを測定すれば、F/OH の比が判断できる。宝石の世界で OH トパーズに付加価値が与えられるのは、ピンク-橙-赤系の色の美しさ、希少さはもちろんながら、多少なり屈折率が高いことも主張点となっている(つまり同じピンク系のトパーズでも Fタイプと OHタイプとでは輝きが異なる)。

トパーズはさまざまな環境下で生成されるが、産状と F/OH 比との間にはある程度の関連が認められており、環境に水分が存在し、かつ晶出時の温度の低いことが OH 含有率の高さに反映するようである。
おおまかに分類してみると、トパーズには火成(火山性)、ペグマタイト性、グライゼン、熱水性のものがある。生成温度が最も高いのは火山性で、850〜600℃程度の環境下でマグマから揮発したガス成分から直接晶出すると考えられている。No.188のように流紋岩(リョーライト)中の空隙に成長したタイプがこれにあたる。おおむね OH 成分に乏しく、置換率は1%程度である。
(花崗岩)ペグマタイトは痕跡元素の成分系によって NYF型(Nb, Y, Fに富む/ 非造山型)やLCT型(Li, Cs, Taに富む/ 造山型)に分類されるが、それぞれ 500℃前後、400℃前後(±50℃)の温度でトパーズを晶出すると考えられている。
グライゼン環境での晶出は 300〜400℃程度が一般的だが、ドイツのシュネッケンシュタインは550℃、また150℃という低温の例もあるといい、産地によって大きな差がある。ペグマタイトやグライゼン起源のトパーズは概ね 3〜6%、多くて10% までの OH を含む。以上の3者はいずれも Fタイプに分類される。

対して、熱水性のトパーズは400〜200℃の低温環境で生じ、22〜28%程度の OH を含む(多くて30%まで)。そのため OH タイプと呼ばれ、No.754のオウロ・プレト産はその代表格といえる。
ちなみに F 成分よりも OH 成分が優越する例は自然界ではほとんど知られておらず、最近(
2002年)、中国のSulu テレインの超高圧変成岩(藍晶石珪岩)中に 35〜55% の置換率に達するものが報告されているのみである。人工環境(超高圧下)では100%の水酸トパーズが作られている。(※このことは、F/OH 比を左右するもう一つのファクターとして「圧力」(あるいは地表からの深度)がありうることを示唆している。しかし今のところ、自然界の産状と結びつけてはっきりしたことは言えないようである。)

画像はブラジルのペグマタイトに産した淡青色のトパーズ。ペグマタイトはもっとも一般的な産状で、世界の宝石質トパーズの8割方はペグマタイトで採取されるという。一般に無色、淡青色のものが多く、結晶サイズは大きい。淡青色の発色は結晶構造の欠陥によるとみられ、長期間日光に曝されると褪色する傾向がある(cf.No.757)。天然の淡青色トパーズはあまりに色が淡いため、小さくカットするとほとんど無色に見えて、見栄えのする宝石とはならない。

補記: F/OH 比と生成温度との関係は基本的には閉鎖系環境において(のみ)真とされている。ペグマタイトは往々閉鎖系だが、宝石質の結晶はペグマタイトにあっても開放系環境で生成されるという指摘もある。上述の議論が必ずしもすべての産状を説明するわけではない。

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