754.トパーズ  Topaz (ブラジル産)

 

 

Topaz Imperial  インペリアル・トパーズ

インペリアル・トパーズ −ブラジル、ミナスジェライス州オウロ・プレト産

 

近世のトパーズの流行の始まりは、18世紀初頃からドイツのシュネッケンシュタインで掘り出された黄色の石であった(cf.No.120No.756)。1735年にはブラジルの鉱山町オウロ・プレト(黒い金の意)の近郊で黄色〜橙色(シェリー酒色)のトパーズが発見されてこれに次いだ。そのため、トパーズというと黄色系の宝石のイメージが先行したと思われる。和名も黄玉とつけられた。(補記1)

宝石大国ブラジルのトパーズ産地は、北東-南西方向に2千キロ以上に亘って続く、平行する2つの錫ベルトに集中している。東側のベルトにはバイーア州やミナスジェライス州の宝石鉱物テンコ盛り花崗岩ペグマタイト帯が含まれ、オウロ・プレトもこのベルトの南西端に位置する。ただオウロ・プレトのトパーズはペグマタイト性でなく、堆積層に貫入した古い花崗岩脈が後に熱水の作用を受けて生じた脈性のものとされ、風化した(カオリン化した)粘土脈中の巣(ネスト)に、水晶、ルチル、ヘマタイトなどを伴って見出される。地下深部から上ってきた熱水はクロムを含み、そのためオレンジがかった特徴的なトパーズが生じたと考えられている。(cf.No.757

オウロ・プレト産のトパーズはインペリアル・トパーズと呼ばれる。先行するドイツ産より品質がよい、という含みで自画自賛的に冠された商業名だとされるが、extraLapis に拠ると、 1852年にロシア、南ウラルのカメンカ川の産金地に見事なピンク色のトパーズが発見された時、これを「インペリアル」と唱え、またその色がオウロ・プレト産に似ていたことから一帯を「ロシアのブラジル」と称したのが先で、その後、オウロ・プレト産の(いわば本家のピンク)トパーズもインペリアルと呼ばれるようになった、という(補記2)
ちなみに 1750年にはパリの宝石商がオウロ・プレトの黄色トパーズを 300℃程度でゆっくり加熱すると美しいピンク色に変わることを見出していた(補記3)

いずれにしろ今日では、オレンジ〜赤系トパーズの商業規模の産地はオウロ・プレトがほぼ唯一であり、インペリアルといえばこの産地のトパーズと同義である。
トパーズは一般にキログラム単位の巨晶も珍しくなく、インペリアル・トパーズも2キロに達するものが見つかっているが、カットした宝石に大きなものは少ない。たいていのインペリアル・トパーズは激しく浸食された炭酸岩を切る、数センチ幅に分脈した風化粘土脈中に産し、従って数センチを超えることは稀なのである。また結晶内部に多量の液体インクルージョンが見出されるのが常で、宝石質のものは産量の1%程度にとどまるという。

トパーズの化学組成は Al2SiO4(F,OH)2 である。弗素イオンの一部が水酸イオンに置換され得るが、ペグマタイト性のトパーズは一般にほとんど水酸イオンを含まない。一方、オウロ・プレト産のトパーズは 25% 程度を水酸イオンが占め、これは熱水脈性の特徴とみられている(とはいえ、インペリアル・トパーズを晶出した熱水自体の特性は不明で、いまだ議論半ばである)。

宝石の分野では水酸イオンを多く含むトパーズを OHタイプと呼び、そうでないもの(ほぼ弗素のみのもの)を Fタイプと呼んで区別している。実際的には  OH タイプとはインペリアルトパーズに他ならない。近山大事典(1995/1996)を繙くと、 「トパーズ(Fタイプ)」と「トパーズ(OHタイプ)」の項が並んでいて、後者の説明に「このタイプの黄色石はインペリアル・トパーズの名称を持ち、(中略)、オーロプレト付近が唯一の産地である。その他の産地の黄色石はトパーズ(Fタイプ)である。」とある。また「インペリアル・トパーズ」の項には「オーロプレト付近が唯一の産地であったが、新しい産出として、天然ピンク色のパキスタン・ピンク・トパーズが加わった」としている。「OH タイプ=インペリアルトパーズ=オウロプレト産の黄橙色系トパーズ+カトラン産のピンクトパーズ)」の解釈であるが、鉱物学の分野から見るとおそらく異議があるだろう。
カトラン産のピンクトパーズを鉱物屋はインペリアルと呼ばないし、またその中にはFタイプのものが含まれる、と言われている。

OH タイプと F タイプのトパーズとは、比重や屈折率に違いがあるが、基本的な物性は同じである。詳しくは項を改めて。

補記1:MR誌 Vol.39 No.5 の特集記事によればシュネッケンシュタインでトパーズの商業的採掘がはじまったのは1727年以降であり、オウロ・プレトのトパーズがこれに交代し始めたのは 1770年代とのことである。

補記2: GIA (米国宝石学会)のサイトの "Topas history and lore"ページには、「インペリアルトパーズの名称は19世紀のロシアに発する。当時、ウラル山脈はトパーズの主要供給源であり、この産地のピンク色の石はロシア皇帝を称えて(インペリアル・トパーズと)命名された。この宝石の所有が許されたのは皇族に限られていた。」とある。インペリアルとはロシア帝国(または皇室)を指したわけ。

ブラジルが自国名産のトパーズに「インペリアル」の称号を冠したのは 1883年で、横行していたまがい宝石(シトリン・トパーズやスモーキー・トパーズ)とはっきり区別をつけるためだったという。

補記3:宝石商デュメルは、トパーズを石綿、苦土または石灰で包み、弱火で徐々に熱した後、ゆっくりと時間をかけて冷却する方法を確立した。

補記4:日本の宝石業界では赤みを帯びた橙色のトパーズをもっとも価値あるものとして「インペリアル・トパーズ」と称していたが、2004年の申し合わせにより、OHタイプであれば(屈折率でFタイプと区別出来る)、黄色のものでも「インペリアル」と鑑定してよいことになったという。

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