188.トパーズ Topaz (USA産) |
19世紀の終わりにメイナードがビクスビ鉱とレッドベリルを発見したトーマス・レンジの鉱脈は、その後数十年間消息不明になっていたが、お馴染みアーサー・モンゴメリーとエドウィン・オーバー・ジュニアのコンビによって1934年に再発見された。2人は、この時沢山のトパーズの美晶を採集している。しかしこの産地の真に偉大な時代は、1973年に始まるのである。この年の春、修士論文のテーマにトーマスレンジを選んだ学生ジョン・ホルファートが、ここで運命的な出会いをする。それは、まったくの偶然であった…。
「4月下旬のかなり暑い日だった。私は、主要な採集エリアから離れたある丘の上で標本を採っていた。ビクスビ鉱やその他の鉱物の産出範囲を特定するのが目的だった。
午後の早い時間になっても、まだ何の成果も上がらず、私はかなり落胆していた。あんまり暑くなってきたので、荒涼とした丘の斜面に巧みに根を張った大きな藪の影に入って一休みした。やがて作業に戻る時間がきた。
私は右手に握ったドライバーを支えに体を起こした(クラックやクレバスを探るのに、いつもドライバーを愛用していた)。と、ドライバーが柄の部分まで地面に潜ってしまったではないか。
興味を惹かれた私は手近な藪を引き抜いてみた。すると、根っこの間に、2個の、かなり大きく、しかも全くキズのないトパーズの結晶がはさまっていたのだ。
こうして私の生涯でもっともエキサイティングな鉱物採集が始まった。その藪は、流紋岩の裂け目に根を下ろし、その下にある火山ガスが作った巨大な晶洞の果実を地表まで引き上げてきたのだ。それから10年以上、私達はこのエリアを掘り続け、トパーズ、ビクスビ鉱、ガーネットの仮晶、さらにこれらが様々に組み合わさった素晴らしい標本を採集して来た。それらは実に立派なトパーズの群晶であり、トーマスレンジで(あるいは世界で)、もっとも素晴らしいトパーズの標本であった。」
この地域はメイナード・トパーズ・マインと名づけられ、今でも沢山のトパーズが採れる宝石鉱山となっている。
補記:本産地のトパーズは火山性で、高温環境下でマグマから揮発したガス成分から直接流紋岩中に晶出したものと考えられている(cf.
No.755)。通常、画像の標本のように晶洞中のものは淡褐色に着色しているが、地表面で見出されるトパーズはたいてい無色である。太陽光の曝射によって褪色するとみられている。逆に無色のものに強いガンマ線を照射すると再び淡褐色に着色する。(また250℃程度まで徐々に加熱しても褪色するが、放射線によってやはり色が戻る)
従って着色要因は結晶欠陥(F)のカラーセンターによると考えられている。