763.ベルセリウス石 Berzeliite (スウェーデン産)

 

 

Berzeliite

ベルツェリウス石 -スウェーデン、バームランド、ロングバン産

 

セレン化銅鉱であるベルセリウス鉱 (Berzelianite: 1850年)同様、スウェーデンの大化学者 J.J.ベルセリウスに献名された鉱物。希産鉱物のメッカの一つである同国ロングバン鉱山で発見されて、1840年に記載された。通常は塊状または丸粒状で、まれに偏方多面体の結晶面を見せる。等軸晶系の結晶構造を持つが、これはガーネットとほぼ同じ原子配列である。透明〜半透明で、黄色〜蜂蜜色〜黄橙色〜黄赤色を呈する。硬度4.5-5 で脆い。へき開はなく、断口は貝殻状ないし参差状。吹管で容易に熔ける。

組成式 Ca2Na(Mg, Mn2+)2(AsO4)3。マグネシウムとマンガンとの比率変動は連続的で、あらゆる割合の固溶体を作る。Mn 優越種は Manganberzeliite と呼ばれ、やはりロングバンを原産として 1894年に記載された。
どちらも世界的に稀な種だが、日本では福島県御斎所鉱山に相当量の Manganberzeliite を産した。変成層状マンガン鉱床中に砒素が濃集して無水砒酸塩の形で鉱物となったものと言え、ばら輝石中に脈をなす産状は原産地ロングバン鉱山によく似ている、と加藤昭博士が指摘している(桜井コレクションの魅力)。

同じ人物名からとられた Berzelianite と Berzeliite とは非常に紛らわしい名称と思われる。日本では最高権威といって差し支えない博士が、上掲書で Manganberzeliite にマンガンベルツェリウス石の名を充てられているのだが、別のところでは Berzelianite をベルツェリウス鉱と呼ばれている。では Berzeliite はベルツェリウス石ですね、と冗談を言いたくなるけれど、鉱と石とで区別をつける事態は避けねばならない。
そも、続原色鉱石図鑑(木下、湊共著)は Berzeliite にベルチェリウス鉱の和名を用いているのである。(ちなみにこの項(砒鉱)の記述は Berzeliite に関するものに違いないが、図版標本の産地が Skrinkern となっていて、Berzelianite の原産地 Skrikerum (スクリケルム) に酷似しているところが、かなりアヤシイ気がする。)

とりあえず Berzelianite は「セレン化銅の」ベルセリウス鉱、Berzeliite は「スカルン鉱物の」ベルセリウス石としておこう。ちなみに木下学名辞典(1955)は、セレン銅鉱とベルセリウス石とに呼び分けている。

補記: Berzelius の名はラテン語流に発音するとベルゼーリウス、スウェーデン語だとベルシェリウスまたはベルチェリウスの音が近いようである。ただ Wiki にベルセリウスとあるので、表記はこれに倣っておく。

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