819.マラヤ石 Malayaite (イギリス産) |
イギリスの錫といえば、コーンウォールの山錫や砂錫が有名だが、デボンシャー西部もまたかつて錫の産地として知られたところである。このあたりはダートムーアの花崗岩貫入とこれに関わるバリスカン造山活動とによって(熱水鉱化作用で)金属の濃集帯が生じ、コーンウォールに連なる大鉱山地帯が形成されているのである。銅や鉛、亜鉛、砒素、アンチモンなども得られたし、金や銀も出た。といっても採鉱業の盛期は1世紀前に過ぎ去り、19世紀後半に世界最大の銅産を誇った両地方も今は世界遺産、鉱業景観としてただ昔日の面影を偲ぶばかりである。
オウクハンプトンは銅や砒素の鉱山が点在した地域である。レッド・ア・ベンは 19世紀中頃に銅山として試掘されたが、本格的な稼働には至らなかったとみられている。崩落し、水没した縦坑跡とわずかなズリが残るばかりだが、マラヤ石を目当てに今なお採集家が訪れるという。 Dana 8th や Minerals and their Localities に記載されたイギリスの産地はここだけで、錫の本場にしてマラヤ石は珍しい鉱物なのであろう。
cf. No.813 日本産