856.鉄ミョウバン石 Jarosite (USA産)

 

 

Jarosite 鉄みょうばん石

鉄明礬石(ハラソ石) -USA、AZ、アペックス鉱山産

 

狭義のミョウバンはカリ明礬(ミョウバン石)を指すが、広義にはさまざまな成分のミョウバンがあり、本鉱はそのひとつである。組成 KFe3(SO4)2(OH)6。ミョウバン石のアルミ成分を鉄に置換したもので、鉄とアルミを等量程度含む中間的性質のものもある。
カリウム成分はナトリウムで置換され得る。鉄ミョウバン石に対するナトリウム優越種をソーダ鉄ミョウバン石 Natrojarosite、ミョウバン石に対するものをソーダミョウバン石 Natroalunite と呼ぶ。この4種は実験では任意の組成で連続的に合成出来る。

鉄ミョウバン石の仲間にはヒドロニウムイオン(H3O+)がカリウムイオンを置換したヒドロニウム鉄ミョウバン石 Hydroniumjarosite もある(cf. 補記)。かつては麦色菱鉄鉱 Carphosiderite と呼ばれていた。アンモニアが置換するとアンモニオ鉄ミョウバン石、銀が置換すると銀鉄ミョウバン石、鉛(イオン半径がカリウムイオンに近い)が置換すると鉛鉄ミョウバン石である。ビーバー石 Beaverite -(Cu) はカリウムを鉛で、鉄の一部を銅(とアルミ)で置換したもので、アルミが優越すると尾去沢石になる。ビーバー石には最近、銅の代わりに亜鉛が入った種 Beaverite-(Zn) も定義されたが(2011年)、尾去沢石でこれに対応するものは未だ見つかっていない。

ちなみにミョウバン石のカリウム(1価イオン)のサイトに2価のカルシウムの入ったものが 1992年に報告されたフーアン石 Huangite で、電荷調整のために結晶構造上カルシウムと同数の空位がある。組成式は空位記号□を使うと Ca0.50.5Al3(SO4)2(OH)6 と書ける。しかし最近のIMA リストは単に Ca0.5Al3(SO4)2(OH)6 と表現している。同じ頃記載されたバリウム置換のウォルチェ石 Walthierite も同様の空位を持つ。Huangite に先立って 1982年に報告された南石 Minamiite は (Na0.36K0.10Ca0.270.27)Al3(SO4)2(OH)6 と定義された鉱物で、ソーダミョウバン石の一種(多型 -2c)である。原産地は群馬県の万座温泉。堀博士「楽しい鉱物学」(1990)の「南石と南極石」で取り上げられているが、温泉化学者でもあった南英一博士に因み、没後、奥様の了解を得て命名された。博士は生前、この温泉産の南石の、明礬石族としては特異なX線粉末回折パターンに気づいておられたという。後に独立種を取り消され、命名規約に従い Natroalunite-2c となった(2010年)。 

鉄ミョウバン石は、乾燥気候下で風化を受けた硫化鉄鉱(黄鉄鉱)鉱床に二次鉱物として生じる。しかし同じく風化物である褐鉄鉱(針鉄鉱・鱗鉄鉱)とは共産しても密に混じりあうことが少なく、薄層でもはっきり分かれている産状が多いという。米国西部州(アリゾナ州、コロラド州)に良標本の産地がある。また熱水作用による産状もある。
普通は土状・塊状・皮殻状・結核状だが、時に微晶(<1mm)が見られる。六方晶系の結晶構造を持つが、三方晶的な晶癖を示すことが多い。六角板状、菱面体状の自形も。
色調は褐鉄鉱と似ているが結晶があれば識別出来る。そうでなければ区別は難しい。カリや硫黄成分が検出されればまず本鉱といえるので、吹管試験でカリウムの紫色の炎色反応が出ること(硝酸滴下で反応が鋭敏になる)、硫黄成分による銀板に対する黒化作用を調べることになる。

ミョウバン石族の鉱物は成分変化に富み、さまざまな元素を含みうるので、定性分析によって産地に濃集された元素のあらましが知れるという。
学名(英名)の Jarosite は原産地標本を提供したスペインのバランコ・ハラソ Barranco Jaroso に因む(1852年)。画像の標本はアリゾナ州アペックス鉱山産。ここは20世紀の前半に、銀−鉛−金−銅の鉱脈を坑道掘りした。
本鉱は火星の表面探査でも存在が確認されており(2004年)、酸性の湖や温泉の作用で生じたと推測されること、すなわちかつて火星に水が存在した有力な証拠となるものと考えられている。

 

補記:H3O+ はヒドロニウムイオンと呼ばれていたが、最近はオキソニウムイオンと呼ばれる。水素イオンと水分子が結合した形のもので、昔でいう水溶液中の H+イオンは実際にはオキソニウムイオンの形で存在しているとみられる。酸性水溶液中では H+はさらに多数の水分子に水和されて挙動するといわれる。
鉱物界では「ヒドロニウム」を用いたレガシーな種名が残っているが、この10年ほどに記載された種では Oxy- が採用されている。

補記2:Jarosite の和名は鉄明礬石が一般的だが、本鉱とは別に鉄明礬と呼ばれる鉱物 Halotrichite がある。ハロトリ石、ハロトリカイト、鉄毛礬(てつもうばん)とも呼ばれる。こちらはミョウバンの仲間と少し違うのだが、古来 feather alum 羽状ミョウバンと通称されてきた。

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