イキケ石

Iquiqueite

カリーチェ中のイキケ石(レモン色)
−チリ、マリア・エレナ、サラル・デル・ミラージュ産

 

◆チリ、コピアポ県あたりの荒涼とした大地が、(酸化鉄による)黄土色のためにティエラ・アマリージャと呼ばれたことを No.861 に書いたが、チリ硝石を豊富に含むカリーチェにも同様にカリーチェ・アマリージャと称する鉱石がある。
カリーチェは普通、雪のような白色〜淡灰色だが、北部チリにはところどころ黄色く色づいたカリーチェが見つかるのである。その色が硫黄を連想させるからか、あるいは本当に硫黄分が(硫酸塩の形で)含まれると知ってか、カリーチェ・アズフラード(硫黄のカリーチェ)とも呼ばれた。
実際は硫黄分に限らず、さまざまな黄色鉱物の含有が着色要因として考えられ、ヨウ素酸塩、クロム酸塩の鉱物が見つかることもある。イキケ石はそんな一つで、チリ北部にはわりと広範に産するが、特にタラパカ地方ザピガ(原産地)に多いという。 cf.No.129 (アタカマ砂漠を黄色く染める硫黄)
冷水にゆっくり溶ける性質があり、カリーチェ・アマリージャを冷水で洗うと沈殿物として残る。かなり鮮やかな黄色のカリーチェでも含有率は 1%に満たないが、こうして集めた残滓を分析してイキケ石の化学組成が決定された。

新種としての記載は 1986年だが、1920年代すでに W.ヴェッツェルがその性質を記述していたと言う。もっともヴェッツェルは当初、ヨウ素・クロム酸塩のディーツェ石 Dietzeite; Ca2(IO)3(CrO4) と考え、次いで鉄の硫酸塩の一種と考え、最終的にレーヴェ石 Loeweite (Löweite); Na12Mg7(SO4)13・15H2O 類似の鉱物でクロムやカリウムを含む、 クロム・レーヴェ石 chromloeweite と呼んだのだったが。
而して半世紀以上経って米国の鉱物学者たちが得た組成式は、Na4K3Mg(CrO4)B24O39(OH)・12H2O、ホウ素(酸)を含む水和クロム酸塩であり、硫酸塩ではなかった。
それまでカリーチェ中にホウ酸塩やクロム酸塩の鉱物が含まれる例は知られていたが、両者を共に成分とする天然鉱物はイキケ石が初めてで、このタイプの物質は合成物にもなかった。記載者らはイキケ石の合成を試みたがうまくいかなかったという。

二次的に生成するものとみられ、本鉱が晶出する周囲のチリ硝石や岩塩は溶失して空隙が生じていることが多い。
薄い六角板状の結晶をなすが、サイズはふつう 5-50μm径、厚みは5μm 程度と極微小である。水酸基を含む 12水和物と定義されたが、脱水性・吸水性があり、かつそれによる物性の大きな変化は観察されない。付加的な水分の出入りが結晶構造を損なわずに起こるらしい。

イキケ石はその名の通りチリ北部のイキケ港に因む。1830年にチリ硝石が初めて輸出されて以来、1930年に交易拠点がトコピヤ港に移されるまで、1世紀の間繁栄を謳歌した町である。ビーグル号に乗ったダーウィンも航海中に立ち寄っている。

ギャラリー No.862 チリ硝石・イキケ石

硝石とチリ硝石について

 

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