890.グロッシュラー Grossular (カナダ産)

 

 

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グロッシュラー(緑色)、クロム鉄鉱(黒色)
−カナダ、ケベック州アスベストス、ジェフリー鉱山産

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グロッシュラー −カナダ、ケベック州テットフォード、ブラックレイク産
(ブリティッシュ・カナディアン鉱山産)

 

No.889に続けて。)
20世紀のカナダは石綿(アスベスト)生産が国の重要な外貨収入源となっており、石綿の健康被害が取沙汰されてからも長い間使用禁止に反対していたが、国際的な需要の低迷は如何ともし難く、ついには産業の存続を断念することとなった(補記1)。ケベック州アスベストスの巨大露天掘り鉱山は 2002年に採掘を終えた。鉱脈が尽きたわけではないので、いつか石綿製品の無害化が実現すれば再稼働されるかもしれないが、今の時点でそれは遠い夢物語であろう。ということは鉱物標本もメジャーな産出は暫く見込めないということになる。

ジェフリー鉱山の最盛期は 1960~80年代にかけてで、標本流通の最盛期もこれに重なっていた。70-80年代には相当数の標本が出回ったが、つまり繁忙をきわめる現場作業の傍ら作業員たちのぽっぽないないした標本が、鉱山ゲートを潜ってシャバに持ち出されたのである。
グロッシュラーでは 1972年、1983年、1985年(白色不透明)、1998年(ピンク色)などが伝説的な当たり年で、それぞれ特徴的な色彩・結晶面を具えた標本が市場を賑わした。

グロッシュラー(灰ばんざくろ石)は理想組成のものは無色で、ジェフリー鉱山でも無色の結晶が出たが(天然にはかなり珍しい)、多くはオレンジ色、シナモン色(cf.No.332)、ピンク色などの暖色系(ヘッソナイト系)、ないし淡緑色をしていた。ビビッドなエメラルド緑色のものは含クロムとされ、呈色もクロムに因ると言われている。結晶全体が鮮緑色のものが普通だが、コアだけが濃緑色のものがあり、珍しいタイプというので人気を博した(1983年ものなど)。

上の標本はジェフリー鉱山産の含クロム・グロッシュラー。
下の標本はジェフリーから北東に車で1時間ほどにあるテットフォード・マインズ市ブラック・レイク産。あたりはアスベストやクロム鉄鉱を採掘する鉱山が往時約20ケ所あって、19世紀末から20世紀末にかけて稼働した。ブリティッシュ・コロンビア鉱山はその一つで、 90年代に宝石質の緑色グロッシュラーの標本を出した。1997年に閉山した。
99年のホリミネラロジーの通販で入手したもので、通販リスト97に解説がある。蛇紋岩の周辺には珪酸分に富んだ白色の岩石を生じやすく、しばしばその主要構成鉱物としてグロッシュラーが見られる、こうした岩石をロジン岩という、緑色はクロムによる発色、とある。母岩(ロジン岩)は淡いピンク色をしているが、微量の鉄やマンガンを含むためらしい。なお、リストにある産地名 Trielford は Thetford の誤り。

この産地の標本はしばしばジェフリー鉱山産のラベルを付けて出回ったそうだ。地質環境はまあ同じようなものだから、必ずしも両者を見分けられるとは限らない。
いつかまた会いたいね。

 

補記1:カナダにとって石綿産業は長く政治的な聖域だった。かつて「白い黄金」と呼ばれた石綿の使用禁止国が国際的に増加する中で、禁止されていない国への輸出が続いた。ジェフリー鉱山も稼動を停止した後、貯鉱が尽きるまで出荷を続けた。その後アスベストス村は鉱山再開のための融資獲得を画策したが、2012年に撤回。
ちょうどその頃 (2011年)、カナダで最後まで残ったブラックレイクのラック・ダミアンス(石綿湖)鉱山が稼動を止め、130年間続いたカナダの石綿採掘は完全休止期を迎えていた。
2018年、カナダ政府はついに石綿製品の使用禁止法を通した。アスベストス村はアスベストのイメージ悪化に弱り、村名を変更することにした、とのニュースがこの年末(2019.12)にあった。

補記2:ロジン岩は蛇紋岩帯に普通に伴う白色の岩体。地底で生じたカンラン岩が地上に上がってくる際に周囲の岩石(ハンレイ岩や玄武岩など)を巻き込み、カンラン岩が蛇紋岩化した時に余剰となったカルシウム成分がこれらに強力に作用して変質させたものといわれている。グロッシュラー類(灰ばんザクロ石/ハイドログロッシュラー)、斜灰簾石、ぶどう石、透輝石、ベスブ石、緑泥石などで構成される。超塩基性岩の一種だが、鉄分に富む鉱物を含まないために白っぽい。 1911年に、ニュージーランドのローディン Roding 川付近の蛇紋岩中から発見・報告された。

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