1006.水晶(複合形2) Quartz Aggrigate (中国産ほか) |
スペイン産のサイコロ形の黄鉄鉱結晶は、砂岩やマール(泥灰土)中でほぼ自由成長して、しばしばほかの個体と連接して現れる。ヘオミネロその2に示すような相互貫入形状の標本を眺めるとき、私たちは直観的に貫入双晶を想う。
しかし個体は初め各々孤立した空間で生じ、結晶方位に相関性のない状態で成長していたとみられる。肥大して接近・遭遇した時も、ランデブーのために互いの軌道・方位を同期させるということをしないで、ただ物理的に干渉しつつ個別の成長を続けた、と推測されている。従って双晶でないという。
個体と個体との間には薄い粘土の層が挟まっているのが常で、面境界は別の物質によって隔絶しているそうだ(そのため分離しやすい)。これも双晶でないことの根拠。
ニューヨーク産のハーキマー水晶もまた、(潰れた)団子を積み上げたような同様の連晶形が知られる。やはり個体同士が外れやすく(標本は普通、接着復元してある)、結晶方位に幾何学的な関連性は乏しい。
昨年暮れに店仕舞いされたニューヨークの標本商 J.Betts氏のオンライン・ミュージアムには目下、膨大な数の標本画像が上げられており、この種の連晶が一般にどんな様子をしているのかネット上で俯瞰することが出来る(USA→
NY州で検索されるとよい)。
水晶の自形は六角両錐でサイコロ形より複雑なせいもあろうが、多数の個体が連接した形状は、果たして接合の仕方に規則性があるのかどうか読み取ることが難しい。グウィンデル水晶のように弓なりのカーブを描いているものもあるが、たいていの標本は、天ぷら鍋に相次いで放り込んだ掻き揚げの具が、掬い上げてみると繋がっていた、みたいな雑多な印象を受ける。
ではすっかり無軌道なのかと言うと、中には何かしら幾何学的な秩序を内包しているふうなものがある。平行連晶的なタイプがそうだし、2個体の結晶面(のいずれか)が平行だったり、幾分傾斜した準平行だったり、稜線がほぼ直線的に並んで見えるものもそうだ。
このページの上の画像は一例で、一つの晶洞の中に大きさの異なる3つの個体が連なって嵌っている(一番大きい個体の裏面には別の小さな個体もくっついている)。仮に三つが独立に生じて成長していたとしても、晶洞の中を転がり回るうち、何かの拍子で面同士(柱面と錐面、錐面と錐面等)が接触して表面効果で密接し、あるいは運動を制限し、成長を続けるうちに互いに身動きとれなくなった、といった状況が思い浮かぶ。正面に出ている3個体の柱面(m)は平行でなく、わずかずつ傾いているが、妙なことに傾きの具合がほぼ等しい。稜線の並びは幾分傾きつつもやはり幾何学的である。
私は、一群の個体が双晶として成長したとは言わないが、双晶的な配置をとって(後発的に)接合した可能性はあろうかと思う。
ちなみに三つの個体はいずれも右手水晶。同じ手の水晶が三つ揃う確率は4分の1だから、これだけでは個別に生じたのか双晶的に生じたのか、言うのは難しい。
中国の雲南省にはハーキマーに類似の両錐水晶が産して市場に出回っている。No.1005はその一つで、このページの二番目の標本もそうだ。後者は最初の画像に見える三個体のうち二つが平行連晶である。もう一つは一対の柱面が別の個体の柱面に平行で傾軸式に接合しているのだが、挟角は日本式双晶よりも広くて約110度ある。
末尾の画像は最初の画像を表面とすると対する裏面を(やや角度を変えて)示したもので、前述の三個体とは別に少なくとも二つの小さな個体が付着している。模式図に紫色で示した個体の柱面は、その下の黒色で示した大きな個体の柱面に対して若干の傾斜を持っているのだが、大まかに言うとほぼ柱面同士で接している。そして互いの柱軸方向は約110度(70度)、接触する柱面上で回転してずれた配置になっている。
両者が双晶的関係にあるのか、たまたま(ランダムに)この配置をとったのか、やはり一概には言えない。とはいえ、昔の学者さん方もまた、こうした相対的な位置関係を調べながら、水晶の双晶タイプについて分類研究を進めたのらしい。