1005.水晶 複合形 Quartz aggrigate (中国産)

 

 

水晶 両頭形の個体に別の個体が
擬似傾軸式に接合したもの 
(互いの柱面を向き合せて
約 69度の角度で交差し、
さらに一方の個体が自身の柱軸回りに
回転して柱面同士の交線が錘面下の
稜線に対して約11.5度傾斜した
結晶方位になっている)
−中国、雲南省産

 

 

岩波「鉱物学」(1975)に「双晶」を引くと、「一つの鉱物の単結晶が二つ以上集まって、ある一定の結晶学的方位に従って接合しているとき、それは双晶(twin)とよばれる。」とある。
問題は、その結合方位が、ある一定の法則に従っているのかどうかをどうやって知るか、だと思う。そして二つ以上の個体は、単に外観上折り重なって接触(干渉)しているだけなのか、それとも結晶構造に従って接合しているのかを、どうやって判断すればいいのか、である。(実際はそんな判断は一般人には困難だろう。ただ出現頻度に統計上の有意な差異があるかどうか−ほかの方位/形態に比べて頻度が高いとか低いとか−は、語りうるのかもしれない。) cf. 補記1

また言う。「もともと双晶とは、巨視的な立場からみた結晶の幾何学的な現象であり、たかだか顕微鏡的なスケールまでの場合に用いられることが多かった。しかし、外形的に単結晶のようにみえても、顕微鏡的に双晶している例が、また顕微鏡的に単結晶のように見えても、X線でしらべると双晶している例が広く知られるようになった。」
このところギャラリーで紹介してきた表現に寄せて言えば、水晶の場合、もともとは単結晶と異なる形態(複合形)になっていることが肉眼的に認められる標本(ないし理想形状)を双晶として扱ったのが、やがて外観で見分けがつかなくても他の手段(エッチング、光学検査等)によって双晶と判別出来るものが広く知られるようになった、ということだろう。

ドフィーネ(ドーフィネ)式(電気)双晶(cf. No.972-No.976)やブラジル式(光学)双晶(No.977, No.984-No.986)は、当初下図のような理想形態によって定義されていたが、ブラジル式双晶の実例はごく僅かにしか知られなかった(その存在を疑う者もあった)。しかし光学的なブリュースター縞がラメラ構造のブラジル式双晶に起因するものであることが分かって、ブラジル産のアメシストにはむしろ普遍的な結晶状態であることが明らかになった。

左:ドフィーネ式双晶、右:ブラジル式双晶の理想形

ドフィーネ式双晶も実は(産地によって)普遍的に存在すること、外観的に判別出来ないものが圧倒的多数であることが、圧電子として産業利用する過程で明らかにされた。天然水晶では単結晶であることはむしろ異常で、こうした双晶構造を含むのが常態とみられるのだ。(ということは、結晶構造/格子が局所的に歪んでいるのが常態ということでもある。)

一方、日本式(ガルデット式)双晶は歴史的に同様の議論の起されなかった双晶で、依然として傾軸式の形態によってのみ語られている。形態的な日本式双晶は鉱物標本として希少性が認められ、コレクターには所有することの嬉しいものである(標本として以外に価値はないが)。cf. 補記2
しかし形態に現れなくても日本式双晶構造を内在させた結晶は、今の私たちが思っている以上の頻度で存在する可能性が否定出来ないのではないか…というのが、近年改めて定義されている「多重日本式双晶」標本を観察しての私の感想、というか疑義の提起である。(cf. No.1002-No.1004) 

日本式双晶の形態例

ところで、これら三種に限らず、別の結晶学的方位に従った水晶の(学術的に未定義の)双晶が、実は今の私たちが認識している以上の頻度で存在するのではないだろうか。そして統計的に調べてみれば、そのような双晶の種類には多くのバリエーションがあるのではないか。群晶の標本・複合形の結晶をいくつも眺めていると、目に覚えの形態があちこちに散らばっているように思えてくる。必ずしもランダムな方位で接触(接合)したのではないだろう形態が…

画像は中国産の両頭水晶で、おそらく柔弱な地質中ないし溶液中で比較的自由に成長し、成長のある段階で別の個体と接合を果たしたと推測出来る形状のものである。この時、接合方位の決定に結晶構造に発するなんらかの(例えば電気的な)相互作用が働いたとすれば、たまたまランダムに接触した(貫入した)だけの無秩序な形態ではない、ということが出来る。cf. No.950 (溶液中の結晶の接合観察)
この標本の2個体は互いの柱面同士がほぼ向き合った形で、約69度の挟角で交差している。この関係は明らかに日本式双晶と異なり、むしろライヘンシュタイン-グリーゼルンタール式(挟角 76.26度)に近い。但し、これとも違って、一方の個体が自身の柱軸周りに幾分回転した配置になっており、そのため両個体の柱面同士の交差線は、その柱面の錘面下の稜線に対して約11.5度傾いた方位になっている(正対している場合は平行になる)。
私はこれに似た関係の接合形が、そのつもりで探してみると他にも多数見つかるのではないかと予想する。もっとも、これが双晶であると宣言するには、もっともっと検討を要することは分かっている。

 

補記1:双晶の種類を語るのに、結晶構造の「格子点」、「双晶格子」といった概念が、また起こりやすさの一つの目安として「双晶の指数」の概念がよく用いられる。結晶構造的に解釈することの難しい形態は、おそらく発生頻度の乏しいもの、あるいは偶然の産物であり、双晶として扱うべきでない、とひとまず仮定するのである。

補記2:形態的なブラジル式双晶の標本は、日本式双晶よりはるかに希少性が高いと思われる。cf. No.977

補記3:v.V.M.ゴールドシュミットは、上述の三種の双晶のほかに、傾軸式として ライヘンシュタイン-グリーゼルンタール式と、サルディニア式の二種を取り上げている(1905年)。cf. No.938 

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