1019.針状水晶の平行連晶 Acicular Quartz parallel aggrigates (USA産) |
ファーデン水晶の標本は、90年代頃からパキスタン産が大量に出回るようになったが、古くはヨーロッパアルプス産(特にスイス、フランス産)や米国アーカンソー州産、ロシアのウラル地方産などが知られてきた。基本的に低温(<350℃)熱水脈起源の水晶に特徴的なものらしい。
水晶の結晶形は六角柱状を普遍とするが、時に柱軸と a軸または b軸の一つを含む平面上で長く伸びて、ノミ形・タガネ形の平たい稜線を持つ偏六角柱状になったり、さらに扁平度が増して平板状の結晶形が発達することがある。
ファーデン水晶はこの種の平板単晶形が多数連接した聚形をとるのが普通で、その中央付近を連ねて細い白濁した帯状の領域が見られる。産地にはたいてい軽度の(圧力)変成作用が働いた証跡があり、大地にき裂が生じ、そのき裂がゆっくりと広がってゆくのにつれて白濁領域(ファーデン)が成長したと推測されている。
このような脈性のき裂にはふつう熱水が通り、水晶(石英)や方解石などが晶出して次第に空間を埋めていくのだが、き裂の拡大と水晶の架橋とがある「正しい」均衡で進行するとき、ファーデンを生じるというのだ。
この場合、水晶の成長ははじめ、き裂の両壁面に対して垂直に、すなわち最短距離で直線的に架橋を形成するよう迅速に起こり、これがファーデンとなる。ファーデンは平行連晶を想わせる周期的構造、あるいは繊維を平行に束ねたように見える組織を示す。
そしてこのファーデンから透明な単晶形や平板状の連晶形が比較的長い時間をかけて育ったとみられる。
さて、ファーデンになるかどうかはともかく、上記のような成長の仕方、き裂の脈壁間を渡って繊維状の水晶が簾のように平行連晶した形が生じうるのかどうかを考えると、ここに挙げた標本はその一例と解釈してよいのではないか。すなわち、件の成長の仕方はありうるだろう、と。
私が思うにこの標本は、下から3つの画像に見えるように、灰色の母岩に生じたき裂をまず白い石英の塊状脈が埋めたものである。その断面は脈壁に対してほぼ垂直な方向に筋(組織)が見られる。脈を埋める過程で生じたもので、おそらく脈壁間を架橋する無数の結晶聚形同士の境界(間隙)の一断面であろう。
その後、一番上の画像で見える表面に大きく空間が開いた、と思われる。そしてその空間は完全には埋められず、細かな水晶の自形結晶や球顆状のクーク石やが出現するステージとなった。この時、水晶は以前に生じていた塊状脈の結晶方位に影響されて、針状単晶の平行連晶を造形したと考えられる。
この鋸歯状平行連晶は疑似的に平板状の聚形ともみなせるもので、環境によってはもっと稜線の整った平板単晶の趣きを帯びて現れるのであろう。