1018.ファーデン水晶4 Quartz Faden (パキスタン産) |
ファデン(ファーデン)水晶は、結晶の出来方についていろいろなことを考えさせてくれる水晶である。そもそもその縫い糸の成因からして、どうなっているのか定かでなく、たいていの愛好家は仮説を立てては首をひねるばかりで、私もその例外でない。
mindat
等ネット上のサイトを見ると、晶脈の両壁に架橋した単晶形が、脈幅の緩やかな拡大に伴って半ばで割れ、その箇所が急速に修復されることで白濁したファーデン部が出来るという説が昔からよく知られたようだ。
また晶脈の両壁の(破断した)水晶の間を最短距離で架橋して、まず白濁した細い直線状のファーデン部が生じ、その後ファーデン部から透明結晶がゆっくりと成長するプロセスも仮説されている。私は後者の方がもっともらしいと思っているが、これがすべてとも思われない(詳細は
No.75参照)。
砂川博士や飯田博士やは、このいずれとも異なる説を示されている。
(詳細は No.300
の追記参照)。
ファーデンはよく整った単晶形中に封入されるように生じた(平板状に伸長する端部では表面付近まで伸びていない)ものもあるが、複数の単結晶形が亜平行連晶したグループ間を伝って伸びている標本も少なくない。後者の様式について砂川博士は、「ファーデン・クオーツを構成する水晶の結晶の特徴は、隣接する構成水晶が完全には平行でなく(亜平行)かつ普通の6方柱状に比べてずっと平板状のかたちをしている点である。」(水晶
2009)と述べたが、実際、この種の標本の結晶構造は厳密に整っているわけでなく、結晶軸の数度程度の揺らぎは許容して内包するのが普通と思われる。
また手元の標本を観察すると、ファーデンを挟んで柱軸方向がいくらか傾いている場合もある。(No.951
にファーデン部の拡大画像と共にその例を示した。)
このページの標本は、亜平行的な成長の様子が明瞭に見られるグループ的な連晶であり、かつファーデンを挟んで柱軸方向が異なる様子をも有したものである。さらに言えば、平板単結晶形の端面(錐面)が鋸歯状に細かく分裂した様子をも示す。つまり単晶形自体も(亜)平行連晶であることを仄めかすようだ。ファーデンの直線性はいくらか減殺されており、グループ間を渡るうちにゆるやかに波うっている。
水晶は構造の非整合をかなりの程度まで許容しつつ巨視的な秩序を保つ性質を持つことがよく分かる。