1020.ファーデン水晶5 Faden Quartz (パキスタン産) |
ファーデン水晶はしばしば平板状の結晶形をなして、その中央にほぼ等幅の白濁線が伸びている。白濁線がよく整っている標本では、その線が幅の狭い白濁部と透明部とを交互に繰り返して、バーコードのような構造を見せて伸びるケースがある。No.951 に一例を示した。この例ではバーコードの伸び方向は白濁線に対して約75度ほど傾いており、また白濁線自体は水晶の柱軸に対して 約53度、あるいは約57度傾いている(白濁線を挟んで異なる)。
ファーデンの成り立ちを説明した文献で、白濁線の伸び方向に対してバーコードが(つねに)垂直になったモデル図を見かけるが、私の観察ではそうとは限らない。というか、普通そうなっていないし、また長い白濁線では傾きが変化している場合もある。
白濁線の伸び方向と水晶の柱軸方向とは、普通角度を持っている。両者が一致する事例を示した文献もあるが、私自身は未見。
白濁線が弧を描く例は珍しくない。この現象は成長中の結晶にせん断方向の応力が作用して線の向きが(バーの向きも)曲がったためと説明されている。つまり(緩やかな)応力下での成長は見かけの結晶構造を歪ませるという仮説と、ファーデンのバーの方向は歪んだ結晶構造の支配下にあるという仮説とが前提されている。
私としてもその仮説は蓋然性が高いと思うが、但しプレファランスな方位は一通りでないだろうと思う。言い換えると多数の標本を検定していけば、有意に出現率の高い複数の傾き角度・方向性のピークが存在するだろうと推測する。@白濁線と柱軸方向の関係についても、A白濁線の伸び方向に対するバーの傾きについても。
このページではファーデン水晶の標本を3例取り上げた。
1例目は比較的バーコード模様の整ったファーデンを伴う細柱状の単晶形の亜平行連晶。平板状の連晶とは少し趣きを異にする。
2例目は平板的な単晶と柱状的な単晶との亜平行連晶で、ファーデンのバー模様はあまり明瞭でない。上述の@、Aの傾きは、No.951の例を含めていずれも異なっており、一意的に決まらないことははっきりしている。
3例目はファーデンを起点として単晶形が3次元的に接合した形。これは
No.1017で示した平板状単晶の長い連晶形がファーデンを起点に3次元的な発展性を持つことの傍例といえる。
ファーデン部は結晶が異常に素早く成長した結果として、異物(気泡等)を含んだ定幅で周期的な構造を伴うと一般に考えられているが、おそらくはまた成長過程で解消されない結晶構造の乱れこそが、素早い成長の持続的な駆動力になったと考えることも出来るのではないか。そしてその乱れは結晶の成長軸にいくつかのプレファランスな選択肢、双晶ないし多結晶的な進展性を(潜在的に)与えるのではないか。