1021.ファーデン水晶6 V字接合 Quartz faden V-conjunction (パキスタン産)

 

 

Faden Quartz

白濁線を持つ平板水晶 −パキスタン、バルチスタン産
この配置で見ると、主に柱軸が上下方向に伸びて
正面の柱面がほぼ平坦な平板状平行連晶(A)。
白濁線(ファーデン)は柱軸に対して
約 72度傾いて、右肩上がりに走る。
線の上下で透明部の発達の度合い(長さ)が大きく異なる。
右端には柱軸が約 30度傾いた自形結晶が2ケ見られる。

背光撮影
わりと厚みのある平板状で、ファーデンは画像の奥方向に、
左側が手前で右に向かって沈み込むように数度傾いている。

白濁線部の拡大画像 
うまく撮れなかったが、背光を適当に透過させると
肉眼ではバーコード模様がはっきり認められる。

一番上の画像を180度ひっくり返した配置
(裏面・上下逆さ)
下側の錐面がよく発達して、柱面は比較的短い
平板状連晶(B)が認められる。
ただし厚みが異なり、左側は厚く右側で薄い。
柱面が階段状に連なっている。

実はこの標本は二つの平板状連晶が、V字形に接合したもの。
この画像の左側は一番上の画像で正面に写る平板A。
右側は一つ上の画像で正面に写る階段状平板B。
対向する柱面(柱軸同士)の挟角は約 49-56度(位置で異なる)。

Faden Quartz

V字にすぼんだ側から見た配置。
下側は平板Aに、
上側は階段状平板Bにあたる。
この画像は平板Bの白濁線が強調されて見えるよう
ライティングしたもの。
平板Aには厚く広いファーデンがあり、
平板Bには薄く狭いファーデンがある(Aと別個のもの)。
平板Aのファーデンは平板Bとの
接合境界にもなっているようだ。
この種の白濁線は柱軸方位の異なる単晶形同士が出会う、
またはそこから枝分かれして発生する根・巣になると思われる。

Faden Quartz

平板水晶 柱軸方向の異なる小晶付き −パキスタン産
主形は柱軸が左右方向に伸びる平板連晶に見えるが、
実は上側(手前側)の平板と、下側(奥側)の平板とは
平行でなく捩れて接合している。
上の平板が画面上にあるとすると、
下の平板は左側が手前に起き、右側が沈んだ配置。
上の平板の中央にはファーデンが
ほぼ上下方向に走る(左下に向かって僅かに傾く)。
画面に対しては上側が沈み、下側が手前にくるよう傾いている。
ファーデンの上側に柱軸がほぼ垂直に傾いた小晶があり、
ファーデンの下側にも同様の小晶がみられる。

錐面を上に立てて、2つの主平板晶の狭い柱面を見せた画像。
平板同士がV字傾斜の配置で接合した様子が分かる。
柱軸間の挟角は約 13度。

上側にほぼ垂直に交わる小晶がある。
その根は大きな平板の内部に潜り込んで見えるが、
ファーデン領域に端を発するらしい。

同じく下側で、柱軸がほぼ垂直に交わった小晶。
この小晶の底部ではこれとほぼ垂直な小晶の形も見えている。
この形の接合はファーデン水晶にわりとよく見かけるもので、
No.75の標本も注意して見ていただくと、
ファーデンの下部あたりで、平板晶の柱面の条線方向に
柱軸が向いた小晶があるのが分かるでしょう。

No.75 (No.951) の標本の結晶方向の参考図
主平板晶は水色で示した結晶形の配置
これに対してほぼ垂直に交差する
薄赤紫色の結晶形の小晶が見られる。
この小晶は白濁線領域近くに生じている。

 

ファーデン水晶の標本を2点示す(No.75の標本も再掲)。これらを観察して私が言いたいことは、

1)主形をなす平板晶中のファーデンの伸長方向は、たいてい平板晶の柱軸に対して傾いており、また広い平板面(柱面)に対しても平行でない(傾いている)。

2)ファーデン水晶には、二つの平板晶が「平板面上で柱軸に対して垂直な共軸」の周りで捩れた配置の接合をなすものがある。ここではV字接合と表現した。(普通の平板晶でも見られるグウィンデル状の歪みに類似。ファーデン水晶にもグウィンデル状の捩れ平面を持つものがある。)

3)ファーデン水晶は主平板晶形に対して柱軸の傾いた配置の小晶を伴うことがしばしばある。そうした小晶はふつうファーデンの近傍に生じている。(このページには柱軸が約 30度傾いたもの、ほぼ垂直に傾いたものを紹介した。)

4)ファーデンを起点として複数の平板晶や小晶が3次元的な接合をなすことは珍しくない。(No.1017は好例。)

5)ファーデン領域は 2)〜4)のような異方配置の晶形を共存させうる拠点として働く。おそらく一つの結晶構造秩序だけでなく、いくつかのプリファランスな秩序を成長の選択肢として潜在させた領域と思われる。

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