951.水晶の連晶 Quartz Sequencial growth (パキスタン産ほか)

 

 

 

水晶の柱面(大傾斜面)に現われた平行連晶の形(柱軸に平行な
m面相当の柱面をなすようである)  No.Fg 54

両頭水晶の片側の頭が分割した連晶形
−パキスタン産
グウィンデル水晶の連晶の旋回 No.Q07

ファデン水晶の柱軸のズレ No.75

同上 平板水晶の稜線の区別

同上 ファデン水晶の縫い糸の角度 

 

(テッシン晶癖の)水晶の柱面を縦に分割して現れるマクロモザイク組織(cf.No.950)は、その発現機構(あるいは構造)のミクロな実体が何であるにせよ、水晶が示すいくつかのマクロな形状、特に(亜)平行連晶や平板状の結晶形を導く原理に関連していると思われる。ここではいくつかの標本について観察を述べる。

1,2枚目の画像はペルー産の蛍石を伴う結晶No.Fg 54)の柱面のひとつである。柱面の下部で、錐面を持つ複数の小さな結晶が亜平行に並んで凸部を形成している。広い柱面はマクロな目で見ると柱軸に平行な m面でなく、勾配の強い大傾斜面に相当する傾きを持つ。錐面との間になす角度は錐面に近い領域で約 153度(Υ面相当)、下部の領域で約146度である。条線は錐面の底面に完全に平行でなく、いくらかうねっている。出現した亜平行連晶の柱面はベースの大傾斜面に対して上開きに傾いており、言い換えるとより柱軸に近い傾きを持つようである(錐面に対して約142度)cf.No.947図。大傾斜面の根元に近い部分が m面化してゆく過程であるかもしれない。
この種の新しい面の成長が、縦に分画された複数の領域の集合として与えられることが分かる。錐面を持つ個々の小分画の見かけの柱軸方向が必ずしも一致しておらず、むしろ相互にかなり傾いて見えるところが面白い。逆に言えば、数度ほどの軸の傾きは(大傾斜面と柱面の混成を含めて)、水晶では全体の統合性を乱さない許容範囲なのだろう。

3〜5枚目の画像はパキスタン産の両頭水晶である。一方の端(画像の右側)は一つの頂上部を持つ錐面を形成している。こちらを起点に見ると、柱面は大きなアンジュレーション(凹凸のうねり)を伴いながら左に向かって次第に広がってゆき、大傾斜面に相当する傾斜領域を挟みながら全体の幅を太らせる。そして反対の端(画像の左側)は複数の頂上部を持つ分裂した頭部になっている。4枚目の画像を見ると、柱面の途中から面が4つに分かれているが、これらの小柱面は互いに平行でなく若干傾いている。
隣り合う六角柱面のなす角度を測ってみると、右側の頭部に近いあたりでは約 121度で理想(120度)に近いが、4つに分裂したあたりでは約 110度しかなく、柱面が柱軸まわりに局部的にネジれていることが窺われる(4枚目の左上の細い柱面と下部にある隣接柱面の間)。逆に言えば、柱面が分かれているのは、この種のネジれが単一面として表現可能な限度を超えたからかもしれない(ふつう、同一柱面上のマクロモザイク小面の相互の傾きの差は1度に満たない)。
5枚目は分裂した頭部を斜め上方から見下ろした画像。こちら側を起点に見ると、複数の細い水晶を平行連晶的に束ねて全体の結晶が構成されているかのように見える。(柱軸周りのネジれが全体に均一に生じるのであれば相対的にネジれがないのと同じだから、柱面は分画されず頂上部は一つにまとまるのかもしれない)。

6枚目はスイス産のグウィンデル水晶。水晶の平行連晶は普通、共通の柱軸方向を持った結晶同士が、一つの柱面を(ということは対向する柱面もまた)、あるいはアイデンティカルな錐面を横一線に連ねるかのように並んだ単結晶の連結形を指して呼ぶ。別の観方をすると、柱軸と六角柱の対角線とを含む平面(ある一つの稜と対向する稜とを結ぶ平面)に沿って単結晶が連なった形状のものである。
この連なりの方向は六方晶座標系の a軸、直行座標系で表現するところの b軸で、水晶の合成では成長の速い方向とされている。またメノウでは b軸方向に長く伸びた組織が生じて、しばしば軸に沿ってらせん状に旋回しているという。
そういう事情と関連があるのか、平行連晶が b軸に沿って少しずつ回転しつつ連なった形象がグウィンデル(捩れ水晶)である。
Q07、No.950に紹介したのと同じ標本だが、ネジれが分かりやすい位置から撮影してみたもの。このテのマクロモザイクは、いわゆるカテドラルの形象にも通じてゆくのかもしれないと思う。
錐面は表面に緑泥石の付着した証跡が柱面より著しい。左肩にやはり緑泥石付着の証跡のある x面と思しい微小面が覗く(あいにく画像とは裏側の面)。これは左手水晶のサインで(cf.No.940)、グウィンデルの柱軸が反時計回りにネジれてゆく事象に整合している(右手水晶では時計回り)。

7〜11枚目は No.75で紹介したパキスタン産のファデン水晶の局部。この標本は全体的に一つの平板状結晶の中央に縫い糸(ファデン)が入った単晶のように見えるが、平行連晶として解釈することも出来そうである。つまり連晶の単位がきわめて細かいために個々の柱面や錐面が相互に区別出来ない結晶という観方である(晶癖と呼ぶのが妥当なのかもしれないが)。
この観方をすると、前面(と背面)に発達した大きな平板面は連晶後に統合された(平滑面で上塗りされた)一つの柱面である。左上から右下に斜めに下がる平行線の縞目は柱面に生じた条線と解釈出来る。そうすると柱軸は条線に垂直であるから、8枚目の画像に矢印で示した方向が柱軸ということになる。
右端に山形の錐面を持った通常の六角柱状結晶の形が見えているが、紫色の矢印はその柱軸の方向に一致している。そしてこの結晶から左向きに平行連晶的に結晶が伸びると(b軸方向ではなく b軸より約 43度傾いた軸に沿ってということになるが)、縫い糸の下側の広い平板面となる。

画像の下部で左右に伸びている輪郭の直線は、ちょうど右端の結晶の下にある錐面間の稜線が長く伸びた線に相当する。左右に向って細長く生じた斜面は、通常の結晶形ではありえない形状の特殊な錐面で、裏側には隣り合う錐面から発展した同様の細長い斜面が出来ている(画像の上部で左右に伸びた輪郭線も同様)。
一方、左端に少し見えている右下がりの輪郭線は、対角上にある対向する錐面同士が長方形状の面となって向き合って生じた稜線である(画像の右端に見える右下がりの輪郭線も同様)。これは通常の形状の水晶でもしばしば頂上部に水平に生じて、ノミ形と形容される稜線/対向斜面である。9枚目の画像に稜線の区別を示す。

さて縫い糸の下側の平板面と上側の平板面とは同一面をなすように思われるが、条線をよく見るとその傾きが約 4度ズレている。言い換えると、上塗りされた平滑面が示す柱軸方向は僅かではあるが異なっているのである。
実際、上側の平板面の稜線(輪郭線)の傾きは下側のそれと完全に平行ではないし、また右端にある六角柱状結晶に対しても傾いている。
全体としてはまるで一枚岩の単晶のように見えるから、おそらくは縫い糸の領域が調整帯となって結晶構造の歪みを吸収しているのだろう。
縫い糸の部分を顕微鏡で見ると、細かな気泡が連なって短い線状に封じ込められていて、近似した長さのその線が左右に平行に連なって糸のように見えていることが分かる。細い線状の気泡は、下の平板部の柱軸に対して約16度、上の平板部の柱軸に対して約20度傾いている。
中間をとると約18度で、この角度が水晶の結晶構造の何かに呼応した必然性を帯びているなら面白いと思うのだが、今のところ私には何も分からない。そもそもなぜ縫い糸の上と下とで柱軸をずらす必然性があるのだろうか。あるいはたまたまずれたからこそ縫い糸が生じたのだろうか。縫い糸のない平板水晶はいくらでもある。

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