1025.水晶(白濁帯を持つ両錐) Quartz (パキスタン産)

 

 

 

両錐水晶と方解石 −パキスタン産

水晶の右側3分の1ほどの領域に、選択的に山形の白濁帯がある。

白濁帯は柱軸方向に霜柱のように伸びて見える。

先端は錐面に平行な山形をなしており、
おそらくタケノコ形状を保ちつつ成長したと思しい
縦方向に伸びた筋模様が認められる。

白濁帯の下部は疑似平面状になっている。
顕微鏡で見ると、細かな(幾何学的な面を持つ)凹凸がある。
もとは破面であったかもしれない。
ヒゲ状に見えているのはルチル(酸化チタン)。

白濁の一筋一筋は、それぞれ幅の短いバーコード模様を持つ。
ファーデンに類似である。

標本の裏面 方解石の釘頭状結晶面が見られる

 

水晶の多くは柱状で、一方の端にだけ錐面が生じている。成長の元になった結晶核は、たいてい先行して存在する何らかの緻密な物体上に着床して固定され、柱軸双方向への成長を進めるが、一方はほどなく床に干渉して成長が止まり、比較的自由な空間に向かった他方のみが伸長し続けるためと考えられる。たまたま双方向ともに自由空間へ向かう配置で着床した時には両錐形が生じる。
粘土物質など流動性のある軟質材中に生じた単晶核は、双方向への成長が比較的自由であるため、両錐形を生じやすい、と考えられる。cf. No.1006

この他、鉱物書を繙くと、着床して一方向に成長した単錐形の水晶が、何らかの理由で床面から外れ、あるいは折損・破断して、その外れた面が自由空間に露出すると、その部分からも柱軸方向への成長が起こり、二次的に錐面を形成する(両錐化する)ことが指摘されている。破断部は普通の結晶面と比べて表面が荒れているため急速な成長が起こりやすく(※ PBC理論で言う K面の成長機構、結晶面は S面や F面の成長機構)、速やかにラフな原錐面が形成されて、その後はオリジナルの結晶面と整合しつつ緩やかな面成長が進む。
このようにして出来た両錐化水晶は、一見、フラットな柱面及び錐面を持っているため、破損した履歴などありそうにないが、X線トポグラフ法で調べると、二次成長が始まった破断面の痕跡(成長痕/構造欠陥の境界部)が明瞭に認められるという。

さてこのページの標本は、破損した単錐水晶から二次的に両錐化したと思しい両錐形である。というのは、内部に成長履歴を反映した幾何学的な(非対称形の)白濁部が認められるからだ。一番目の画像で説明すると、水晶は左側3分の2ほどが透明で、右側3分の1は内部にロケット形の白濁領域を宿している。左右の境界はほぼ直線的な(柱軸に垂直の)断面になっているが、顕微鏡で観察すると細かなギザギザの凹凸面である。
おそらく最初は左側の透明領域を小さくした形状の単錐柱状結晶が存在しており、上述の境界部で破断した。その後、右側部分の成長が進行して錐形を生じたと思われる。このとき急速な成長によって(あるいは単に破断面から引き継いだ結晶構造の乱れによって)、無数の気泡を内部に包含したか、多量の気体を溶かし込んだ溶液をトラップしたため後の白濁領域が準備されたのだろう。
しかしある時期以降は全体が一様に成長するようになり、表面を包む透明な層を形成した。そのため左右両側に跨って光沢のある平滑な柱面が生じ、少なくとも表面的には破断した痕跡(境界)が窺われない。ただ内部の白濁形状によってそれと推測される。白濁領域の成長から透明部の成長に遷移する時点で、その先端は一つの錐形に整っていたと思しい。

ところで私が面白いと思うのは、白濁領域が持つ組織構造(白濁箇所と透明箇所の周期的な繰り返し模様)である。
見たところ、柱軸に比較的平行な、ゆらぎのある長い線状の簾模様を描いている。あたかも霜柱が成長したごとくである。そして、一本一本の長線を仔細に検分すると、それぞれ白濁層と透明層とがバーコードのように繰り返す幅の狭い帯の連なりであることが分かる。
これはファーデンによく似ている、あるいはほとんど同等のものではないだろうか。
すると水晶の着床部からの剥落、あるいは破断は、ファーデン生成のトリガーとなりうるのだろうか。実はレームレインの成長仮説の一端はこの現象を前提としている。

補記:水晶が柱面部分で折損するときは、柱軸に垂直に輪切り状になるより、長い傾斜した断口(裂開面)を見せて割れることが多い。

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