1026.水晶脈(ファーデン10) Quartz vein/ faden 10 (パキスタン産) |
ファーデン水晶のさまざまな例を No.1017から続けて見ていただいたが、ひとまずこの標本を締めとする。
ファーデンの成因として mindat
等で定説として扱われているレームレインらの説は、水晶の脈生する空隙(脈)が動的に開いてゆく過程とファーデンの成長過程とに相関があるとみている。
すなわち空隙が開いてゆくとき、ファーデンの元となる水晶結晶が破断して、開いた空隙の上下(あるいは左右)に分離する。分離結晶に挟まれた空間では優先的に水晶が成長して、破断面間を繋げる(架橋する)。破断面は必ずしも平坦でないので、充填の際に埋め残しが生じ、後にファーデン模様となる空間/気泡/液泡が内部に封じ込められる。
空隙(脈)が開き続けているので、架橋した部分はまた破断するが、やはり優先的に成長が進んで繋がる。あるいは繋がりかける。(彼らが破断する箇所はつねに同じとみているのか、ランダムな箇所で破断するとみているのか、一定のピッチで別の箇所が順次破断してゆくと見ているのか、よく理解出来ないが。)
空隙(脈)が拡がるにつれて、ファーデン(架橋)も成長してゆく。これが第一段階。
そしてファーデンを線状核として、第二段階のゆっくりした成長が起こり、(多数生じた)ファーデンのそれぞれが持つ柱軸の方向に従って、平板状や柱状やの連晶形・単晶形が成長する、というのだ。
この場合、ファーデンは概ね脈を横断して生じていることになるが、厳密に言えば、空隙(脈)が少しずつ開いていった運動方向(引張方向速度とせん断方向速度の合成ベクトル)と一致するはずで、それは必ずしも脈を垂直に横断する方向や、上下(左右)間を最短距離で繋ぐ方向とは限らない。しかし多数のファーデンが同時に生成しているなら、ファーデン同士の方向はほぼ一致する(平行する)はずである。
また脈間の拡大履歴が直線的でなければ、ファーデンはその過程を反映して揃ってカーブしていたり屈曲したりしているはずだ。
第二段階以降も脈間が開き続ける場合には、ファーデンは必ずしも脈間を繋いでおらず、どちらか一方に着床した形で生じることが考えられるし、ファーデンの走向が脈の両側で一致しない(平行でない)こともあるだろう。
このような成長機構を支持しているかに見える例は確かにある。
手元標本には適当なものがないので、ベルン自然史博物館の所蔵標本2例をサブページに示す。一つ目は脈間を繋いで扁平な板状連晶が多数存在し、それらが内部に(脈を繋ぐ方向に)ファーデンを持っているものである。
二つ目の標本には、脈間を繋いでいるものと、脈の片側にだけ接して鍾乳状に生えているものとがみられる。いずれも多数のファーデンは平行して並んでいる。
ついでに数年前まで標本商をされていたJ.Betts
氏の販売標本の画像も1例挙げておく。これは両端にある大きな結晶の間を架橋して生じた平行連晶にファーデンが走っているものだ。両端の水晶がもとは一つの結晶であって、それが割れて次第に離れてゆき、その間を繋いでファーデンが生じた…というストーリーはあまり確からしいと思えないのだが、面白い例なので含めておいた。
(※同様の、レームレイン説に従っていないように思われるファーデン標本の例が、標本商
McNeil のコレクションにある。MR誌 "EUREKA !"号(2022年
5-6月号別冊)をお持ちの方は P251
左上、左下の画像を参照方。)
ところで私としては、これらの例に見られる平行して走る多数のファーデンは、上記の第一段階の機構がなくても生じうるのではないかと思う。ちょうどNo.877で紹介したような、鍾乳状の玉髄が平行に発達する機構によって(言い換えると重力の影響によって)。
ただその場合は、重力方向に対して垂直に広がってゆく空隙(脈)を繋ぐことは原理的に出来ないことになるが。
ファーデンがカーブしていたり屈曲したりするのは、この考えでは重力方向が相対的に変化するためである。
このページの標本は、空隙(脈)間を扁平な板状連晶が埋めているものだ。連晶は概ね脈の上下(左右)を繋ぐ方向に発達している。
そもそも板状の水晶形がどういう機構によって生じるか、それが基本的な問題なのだが(そしてその答えを私は持たないのだが)、こういう標本を見ていると、(柱軸の配置に関わらず)脈間を繋ぐ方向への結晶の成長はこれに垂直な方向への成長よりも優先する場合があるのだ、と考えていいように思われる。
つまり柱面方向への成長速度は、結晶構造的には六方晶系の3つの
a軸に対して等価であるはずながら、実際には空隙(脈)を埋める方向が優先される場合(環境条件/重力が寄与する優先成長)があるのではないか。先行してファーデンが生じるかどうかは別にして、そうなのではないか。
この標本にはファーデンを持つ単晶形がいくつか見られる。ファーデンの走向は画像中に紫矢印で記したように、扁平な連晶形が発達する方向(脈を切る方向)に平行と思しい。
また擬似ファーデンを持つ単晶形も見られる(一番下の画像)。その方向もまた、扁平な連晶形が発達する方向(脈を切る方向)に平行と思しい。
今のところ私が言えるのはこのくらい。