| 1055.紫水晶 Amethyst with c and 'π faces (USA産) |



結晶面の配置模式図


採掘権は何度かの譲渡を経て 1963年にアル・W・ストーラー夫妻に渡った。そうして
70年代にかけてアメシストが採掘された。彼らはフェニックスにロックショップを開き、後にはファウンテンヒルズに宝石店「アメシスト屋」を持った。起伏の激しい地勢のため、鉱山では資機材や食料等をヘリコプターで運搬した。鉱夫は週日の間山に留まり、週末にその週の収穫を積んだヘリで下山した。
ちなみにシンカンカスは甘茶鉱物学(1964)に、「フォーピークスには、激しい溶食を受けた紫水晶が、微小な燐灰石や鱗片状の赤鉄鉱を伴って大量に産する」と述べている。
その後、採掘権は別人に渡り、ヘリコプター費用の高騰からブルドーザーが導入されて地形の改変が行われたりしたが、国有林地の環境破壊が咎められて、採掘権は一つ前の権利者に戻された。90年代初、採算性の問題から鉱山は休止した。
フォーピークス産の宝石質アメシストは、世にシベリア色と呼ばれる赤紫色の美しい色合いを帯び、比較的高い需要が見込まれるのだが、安定操業にはやはり採算性の確保が不可欠である。
その後、NJ州のカート・カヴァーノ氏らが、ツーソン・ショーを通じてこの産地のアメシストに関心を持ち、97年末に鉱区を購入した。フォーピークス鉱山会社を設立して地元業者と提携、採掘を再開して現在に至る。採掘は2人組のチームで行われる。徒歩(3時間)で鉱山に入り、一週間留まって徒歩で下山する。気候が許せば、月に2回のペースで採掘を行う。物資の搬入や収穫物の搬出は春と秋の年2回、ヘリコプターを使って行う。
カヴァーノ氏は、新しい鉱脈の露頭を発見して採掘を始めてから、2024年まで
20余年にわたって手作業で少しずつ掘り進めてきたこと、坑道の深さがようやく
37mに達したこと、年産約900kgの原石が採集され、そのうちカット品質の石は45kgほど(歩留り5%)であること等を明かしている。時に20カラットを超える良品が出る。
高品質の原石は地元の宝石商がルースにカットして米国内外のコレクターに販売するケースもあったが、ほとんどの原石は研磨コストの安いタイ国に送られ、そこで銀製アクセサリーに加工され販売される。これによって採算を確保しているそうだ。ヘリコプター費用も初めの10年はそっくり経費負担となっていたが、近年は年に数回、ヘリによる鉱山見学ツアーを開催するようになり、その収入で賄えるそうだ。見晴しのよい鉱山で結婚式をしたカップルもあったという。
カヴァーノ氏はまた、かつて先住民がこの産地のアメシストを武器の矢じりに使ったこと、スペイン植民地時代に本国に送られた石がスペイン王室の王冠に使われていることを述べ、宝石伝説を盛り上げている。
フォーピークス産アメシストは、他の多くの産地(例えばブラジル産)に似て、錐面が優越した柱面の殆ど発達しない形状で、紫色の着色は均質でなく、錐面に平行な濃淡縞を持つ。結晶は数センチから最大 20センチに及ぶが、着色ゾーンは錐面の表面付近に限られるため、宝石カットの歩留りはあまり高くない。カット後に色の濃すぎるルースが全体の2,3割生じるので、350〜450℃の熱処理を行って調色(淡色化)するが、成功率は5分で約半数が砕けてしまうという。赤鉄鉱の赤茶色の微小片を含むことがあり、しばしば密集状態で含む特徴がある。たいていブラジル双晶が発達しているが、双晶境界を含まない大きさの宝石ルースを得ることは難しくない。
結晶は成長後に熱水による激しい溶食を受けたものがあり、このため天然の水晶には珍しい c面(柱面に垂直な頭面)が現れる。c面はF面(フラット面)でなくK面(ラフ面)に相当し、平衡的な渦巻き成長面や層状成長面ではないため平滑度が低い(粗い)。cf.No.948
このページの一番目の標本は、あまり溶食を受けていない結晶で、錐面間の稜線はシャープである。
2番目の標本は一部の稜線が溶食を受けて幅のある細い面になっており、特にr面が会合するノミ形の頭頂部は長方形状のc面と思しい。模式図に淡紅色■で示した面だ。
その延長で傾斜した稜線にも部分的に溶食面が生じている。淡青色■で示した。よく観察すると、この細長い面の下方にはつねに小さな
z面が見出される。逆にいうと、r面とr面、またはr面とz面との間の主稜線には溶食面(ξ面に相当)は生じず、三方晶的に
(0 1 1 2)に相当する指数の緩傾斜稜線(面)にのみ溶食が起こっているのだ。Dana
7thに掲載された水晶の面・指数対応表によると、'π面にあたる。
ただし、ドフィーネ双晶を伴うと思しきノミ形の結晶では z面は一つ置きでなく、対向する面に配置されるので(cf.
No.1054)、この標本では緩傾斜溶食面は頭部から俯瞰すると平行している。本来の一つ置きの配置(120度配置)で3つの緩傾斜溶食面が揃っているのは、模式図に→で示した小結晶だけであることを付記しておく。
補記:川崎雅之氏の「水晶のモルフォロジー:天然と人工」(2019)に、フォーピークス産アメシストの生成過程について、カソードルミネッセンス等を使った断面観察による、興味深い推測が紹介されている。ネット上で pdf 閲覧可。水晶の頭部は一度破砕され、その後溶食と再成長を経た後、さらに溶食を受けて現在見る形状に至ったのだという。(私としては全ての結晶の頭部が破砕されたとは思われないが、溶食・再成長を繰り返すプロセスは共通している可能性が高いと思う。)