1054.紫水晶 Amethyst (ナミビア産)

 

 

 

紫水晶 右手水晶と左手水晶のペア
長石を伴う
−ナミビア、ブランドバーグ産

 

 

ナミビアの沿岸地方は南北に長くナミブ沙漠が伸びている。ナミブは現地の言葉で、何もない、人のいない土地、といった意味だそうだが、生き物はいなくても岩石や鉱物は当然ある。また沙漠の北部のブランドバーグ山地やその北のトウィフェルフォンティーンには昔の人が岩を削って描いた多数の岩絵が知られており、人跡稀な場所というわけでもない。
ブランドバーグ(ブラントベルク)は花崗岩質の山体で、裾野は円輪状に広がって約650km2にわたる。最高峰のケーニッヒシュタインは標高 2,573mという。これらの地名はかつてドイツの植民地だった名残りで、ブランドバーグは炎の(色の)山といった意味。日を浴びると赤い山容が燃えているように見えるらしい。

この地域の岩絵でもっとも有名なのは「ホワイトレディ」と呼ばれる人物像だ。エロンゴ州ウィス近くの洞窟の中にある赤色の板岩に複数の人物や動物が描かれており、その一人、弓を持った戦士らしき人物の下半身が白色顔料で塗られている。1917年、ドイツ人のラインハルト・マーク(1892-1969)が地勢調査を行った時に発見し、その姿が白人を想わせること、画風が古代エジプト−地中海風であることに注意を払った。
その後、ケープタウンの仏人司祭・考古学者アンリ・ブルイユ(1877-1961)が、人物像を地位の高い女性シャーマンと解釈し、ギリシャ・クレタ島の闘士の似姿を描いた画風に近いことから、かつて地中海世界の人々がこの地域を訪れたと仮説した。そうして古代岩絵は白人種の芸術的感性で描かれたものとの見方が広まった。
以来「ホワイトレディ」はある種のイコンとなったが、今日ではこの人物は男性の狩猟者であり、岩絵を描いたのも現住黒人種サン人(ブッシュマン)の祖先であって、地中海世界の文化的影響とは無関係だったとの説が有力である。時代は 2,000年前かそれ以前とされる。
いずれにせよこうした経緯から、ブランドバーグは周辺に住む人々にとって祭祀的な聖山だったとの観念が西洋圏にあり、付近で採れる紫水晶がブランドバーグの名を冠して流通している。ニューエイジ的に霊験あらたかなアメシストだ、と唱えるのである。

「ブランドバーグ産」と標識された標本は 20世紀の半ばには知られていたらしいが、市場を賑わせるようになったのはヒーリングストーン文化が展開した 90年代のことだ。ただ実際の地産品は流通標本のうちの少数で、ほとんどは西側に隣接するゴボボセブ山地で採集されたものとみられる。ブランドバーグ山地は岩絵の保存・保護指定地になっており、エリア内での鉱物採集が禁じられている。
最近はネットを使っていろいろな情報にアクセス出来るので、産地ゴボボセブの名を明示して販売する例が多いが、それでもブランド名は「ブランドバーグ」であり、能書きもこれに従う。

extraLapis No.16 アメシスト特集号(2012)には「ナミビアの有名なアメシスト」のタイトルで、ゴボゴセブ産の逸品が紹介されている。たいてい玄武岩質の晶洞中に生じたもので、セプター状や逆セプター状のもの、エレスチャル形のもの、日本式双晶、気泡や水泡を含むもの、赤色鱗片状の鉄質鉱物(ヘマタイト等)を含むもの、淡緑色のぶどう石を伴うものなどが特徴品として挙げられる。
上述の通り、「ブランドバーグ・アメシスト」はゴボボセブ産であることが確率的に普通で、母岩付でないものは(標識に関わらず)まずゴボボセブ産とみるべき、というのが業界の観方らしい。一方、母岩付で長石を伴うものは花崗岩体中の産状として、ブランドバーグ産と判断されている。
このページの標本は根本に長石の結晶が付いているので、おそらくラベル通り、ブランドバーグ産アメシスト、No.1053の赤色鱗片を含有する分離結晶はおそらくゴボボセブ産のブランドバーグ・アメシストなのだろう。なお、セプター状・逆セプター状はブランドバーグ産にも知られている。両産地のアメシストは、メキシコ産と同様、柱面が比較的よく発達した柱状の結晶形を持っている。cf. No.589、 No.1009

さて、この標本は2つの単晶が長石上に平行連晶した形をしている。根元側がややすぼまった、軽度のセプター状だ。紫の着色は累帯的で、内部の錐面形に濃い(山入り)。画像にはないが下部の破面を見ると、累帯状(年輪状)の成長痕がよく分かる。
錐面の上方から俯瞰した画像と結晶面の配置図を一番下に示したが、肩の小面の現れ方から判断すると、右側の単晶は右手水晶、左側の単晶は左手水晶と思しい。cf. No.940、 No.941
全体を一つの結晶と見れば、ブラジル式の双晶構造で結合したものともいえる。cf. No.970No.977

左側の単晶の先端は平たい稜線が発達したノミ形になっており、三方晶の特徴を示す r-z面の交互配置が規則的でない。ドフィーネ式双晶を伴うものだろうか。どちらの単晶も z面と判別できる錐面は 2面で、他の 4面は r面的特徴を持っている。ドフィーネ双晶において r面の領域が拡大してゆき、菱面体面が同じような大きさになってゆく現象は、秋月「山の結晶」(p.56)に簡単に触れられている。
cf. No.1030No.959

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