84.塩化アンモン石  Sal Ammoniac   (チェコ産)

 

 

昔、エジプトのアモン神殿あたりで取れた岩塩を、アモン塩と呼んでいました。その後、エジプトで生産されたアンモニア塩がこの名前で呼ばれるようになったのです。

塩化アンモン石 −チェコ、中央ボヘミア州クラドノ産

 

鉱物の結晶は、永遠をたたえている。
のかというと、いつもそうと限ったわけでなく、水に触れればあっけなく泡と消えてしまうものも多い。いや、ダイヤモンドを始めとして、たいていの鉱物は、「形あるものは、いつか滅ぶべし」という美学を内包している。ただ、その寿命が、ときとして何千万年、何億年に及ぶことがあるのも確かだが。

塩化アンモン石は、NHCl の化学組成を持つ。これは、アンモニアと塩素が化合して出来たことを示しており、生成には有機物起源の成分と無機物起源の成分が必要であることがわかる。実際、産状としては、火山の噴気や溶岩が、地表の土、あるいは植物の上に流出したときに生じることが多い。また石炭や泥炭、グアノ(鳥糞化石)が自然発火して生じたガスが濃縮されて晶出することもある。

水に溶けやすい。
手元にあるこの結晶も、いずれは空気中の湿気にやられて結晶の角が鈍り、丸くなり、やがて形を失うだろう。写真にして、在りし日の姿を留めておく。

cf. ひま話 光をもたらすモノ 補記6

追記:プラハにほど近い中央ボヘミア州のクラドノは14世紀に遡る古い町である。16世紀に都市権を与えられた。ボヘミア地方の重工業揺籃の地で、19-20世紀には製鉄産業が盛んであった。町の北側に石炭紀の炭層があり、1775年から採掘が始まって 1990年頃まで続いた。
鉱物界では針ニッケル鉱の産地として知られるが、ボタ山の自然発火で発生したガスの凝華(気体から固体への直接状態変化)による風変わりな鉱物が出ることでも有名である。ここに挙げた塩化アンモン石のほかに、自然セレン、クリプトハライト (Cryptohalite: (NH4)2SiF6)、クラドノ石 (Kladnoite:C6H4(CO)2NH) などがある。
塩化アンモン石は2,3センチに達する単結晶や樹枝状集合が出た。1990年代に出回ったものはクラドノ近くのシェーラー(schoeller)鉱山産で、同じものが 2013年のサンマリオミン・ショーでもまだ売られていたそうである。(2018.8.15)

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