85.たんばん  Chalcanthite  (USA産)

 

 

Chalchantite

たんばん −USA、アリゾナ、惑星鉱山産

 

中学校の時、理科の時間に硫酸銅溶液を使って、結晶の成長実験をしたことがある。米粒くらいの小さな種結晶を溶液につけておくと、それを核にして結晶が成長してゆく。溶液の濃度は次第に薄くなってゆくので、時々濃いものに換えていくと、数日のうちに立派な菱面体の結晶が出来上がる。
たんばんは、自然界に生じる硫酸銅だが、なぜか実験室のような綺麗な結晶をせず、たいてい皮膜〜殻状とか塊状とかになる。写真の標本は、霜柱式に結晶が成長したもので、こんなになるのは珍しい方だ。先端がやや曲がる傾向は、霜柱と同じく、重力の影響を受けてのこと。ちょっと可愛らしい。色もキレイ。
旧く Blue Vitriol (青硫酸塩)と呼ばれ、俗にブルー・ジャック (blue jack)とも呼ばれた。国際名はギリシャ語のChalkos (銅)と anthos (花)から。銅の青い花である。和名は「たんばん(胆礬)」。

秋田県花岡鉱山では、坑道の天井からポタポタ垂れる水滴を、「タンバ」と呼んでいた。たんばんを含んだ水のことで、硫酸イオンのため強酸性を示す。これは、鉱夫の天敵ともいえるやっかいな相手で、衣服につけば、すぐにボロボロになった。木綿は、片時ももたないので、暑いのを我慢してラシャを着た。頭には帽子を被った。安全靴がなく、わらじをはいていた頃は、足の皮膚が負けて赤くはれ、やがて黄色く変色してこわばった。足を見れば、鉱夫とわかったという。頭髪は、推して知るべし。

水溶性。舐めてはいけない。

cf. No.205 緑ばん  No.871 皓ばん  No.860 (ヴィトリオール)


追記:ラパス郡プラネット鉱山はアリゾナの古い廃坑(銅山)の一つで、1863年に発見され、1937年まで稼働された。以降は鉱物コレクターの跋扈する魔境のひとつとなり、1992年の1月、デヴィッド・シャノン(Shannonite に名を残すコレクター標本商)らが、坑道一面に成長した本鉱を採集した。何百という美麗標本はすべて、脱水・変質を抑えるために鉱油浸潤処理が施された。たんばん(胆礬) CuSO4・5H2O は湿気にも乾燥にも弱く保存の難しい鉱物で、ふつう良品を長く保つことは難しい。しかしこの処理はかなり効果的らしく、25年ほど前に入手した上の標本が今も当時の姿を留めている。
シャノン氏らは95年にもこの鉱山から大量の本鉱を採集された。また今年のツーソンショーでは別の業者さんが採集した標本が出回ったという。 (2018.4)

シャノン一家はその後も胆ばんの採集を続けていたが、2019年頃には 18フィートほども掘り進んで、それ以上の採掘が危険な地点に達した。そこで一家はそれまで貯めていた標本をまとめて売りに出したことが MR誌51-3号(2020年)に記されている。

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