94.隕鉄 Gibeon Meteorite (ナミビア産) |
隕鉄は宇宙から飛来した隕石の一種で、鉄を主成分とし、ふつう 4〜25%程度のニッケルを含んでいる。
この種の合金は、惑星内核部の高温液相には安定的に存在するものの、地表付近の鉄鉱石ではありえない組み合わせだという。逆にいえば、太古に破砕した惑星中心部のカケラだったらしい。
古代の鉄器や鉄剣を分析すると、しばしば成分中に数パーセントのニッケルを含んでいることがある。こうした鉄は、当時、隕鉄以外には入手出来なかったはずで、人類は宇宙からの贈り物によって鉄を知り、鉄器文明へと導かれていったと考えられている。
一般に隕鉄は炭素をほとんど含まない極軟鉄だが、ニッケルの硬化作用により、古代の用器としては十分実用になったようだ。この件について興味のある方は、併せて次のページもご覧下され。「天空の剣の話」。(※ただしトロイライトを核とする球状の炭素を含有することはよくある。)
ギベオン隕鉄は、1836年にナミビアのギベオンで発見された。成分分析がされているので紹介すると、
ニッケル % |
コバルト % |
リン % |
クロム % |
銅 ppm |
ガリウム ppm |
ゲルマニウム ppm |
イリジウム ppm |
7.80 7.98 7.82 |
0.40 0.44 --- |
0.034 0.02 --- |
3 --- --- |
100 --- --- |
--- 2 1.99 |
--- <1 0.119 |
--- --- 2.1 |
隕鉄は、ニッケル含有量の多いアタキサイト(13-14%以上)、比較的多くのニッケルを含み(7〜13%)、落下例比率の多いオクタヘドライト、ニッケルの少ないヘキサヘドライト(4.5〜6.5%)に分類される。ギベオン隕鉄はオクタヘドライトである。
オクタヘドライトは鉱物種としては (Fe, Ni) の組成の Taenite テーナイトと自然鉄との混合物にあたる。(※ニッケル分の多いテーナイトと乏しいカマサイトとの混合物ないし連晶。
テーナイトは独立種だが、 カマサイト Kamacite (Fe,Ni) は 2006年に含ニッケル自然鉄として亜種扱いとなった。)
ヘキサヘドライトの主成分は少量のニッケル分を含む自然鉄(カマサイト)で、その名もカマサイトの結晶形(等軸晶系のサイコロ形)に由来する。
発見されている隕鉄の 85%はヘキサヘドライトに分類され、その切断面を研磨して酸でエッチングすると、鉄とニッケルの冷却速度の違いに基づく(テーナイト中に拡散成長するカマサイトの)幾何学的な格子模様が現れる。ウィドマンシュテッテン構造という。ニッケル分が少ないほど格子の目(カマサイトのバンド幅)が細かくなる傾向がある。基本的に八面体構造で(そのためオクタヘドライトの名がある)、異方性のため観察面によって異なる模様が現れる(下図参照)。
ヘキサヘドライトの切断面にはノイマン線という平行線模様が現れることが多い。これはカマサイトの双晶面で、なんらかの衝撃によって生じたと考えられている。
アタキサイトでは通常、腐食模様は生じない。ニッケル分が
13-14%になるとウィドマンシュテッテン構造が微視的なサイズになって肉眼では分からなくなるのだ。
15%以上になると、カマサイトの発達速度が著しく下がるためにテーナイトとカマサイトの微粒混合物となって模様をなさない。そして
25%をこえると成分はほぼテーナイトになり、カマサイトは微小粒としてまばらに入るだけなので、やはり模様をなさない。アタキサイトとは「構造を持たない石」の意である。
追記:1980年代半ば、後に Mr.メテオライト・マンと呼ばれるロバート・ハーグは、ギベオン(ギボン)隕石を求めてナミビアを訪れた。ギベオンは何トンもの飛散片が数年間採集されてきたが、当時の米国では入手不可能に近かったという。彼は地元の学校を訪ねて隕石狩りを持ちかけた。サンプルとしてキャニオン・ディアブロ隕鉄(アリゾナ隕石孔周辺で大量に採集されるポピュラーな隕石)を示し、ギベオンを見つけた生徒に報酬を出す、と言った。校長は400人の生徒全員にサンプルを触らせ、生徒たちは3週間の間に10ケの隕鉄を発見した。最大のものは227キロあった。
これを見た町中の人々が隕石狩りに加わり、30ケが回収された。ギベオン最大の1トン以上の大塊を含む。その後、他のコレクターも参戦して世に数千個のギベオンが現れ流通するようになった。上の画像はその一つ、というわけ。
(2019.10.19)