95.ゼーリガー石 Seeligerite (チリ産) |
化学成分的にいうと、塩素を含む鉛のヨウ素酸塩である。ヨウ素の塩類は結構珍しい。
珍しい鉱物なのであまり知られていない。筆者もよく知らない。だいたい希産種鉱物というのは、手元にあってもなんだか正体がつかめないので、いつまでたっても馴染みになれない。向かいのアパートに知らぬ間に住みついた謎の美女のような存在である。
この鉱物はヨウ素と塩素のせいか、とても薬品くさい。今では大分薄れてきたが、入手して数年は、保健室のような匂いをぷんぷん漂わせていた。従ってこの鉱物のイメージは、医局のエキゾチックな女医さん、あるいは「動物のお医者さん」に出てくる菱沼さん、といったところであろうか。
うーむ、妖しい。
(すこしマジメな話:チリのアタカマ砂漠はきわめて乾燥した土地である。あちこちに薄い塩の層があって地表を覆っている。いわゆる岩塩が多いが、チリ硝石(硝酸ナトリウム)や硼砂、あるいは銅の二次鉱物が大量に集積した箇所があり、鉱業利用されてきた。チリ硝石の窒素分がどこからきたかについては多くの議論があり、火山性堆積物に起源を求める説が有力だが、海底に堆積した海藻などの有機物に由来するとの説もある。チリ硝石を含む塩の島(カリーチェ)はしばしばヨウ素を含むので、後の説も捨てがたい。海藻はヨウ素の含有量が多いことで知られている。ゼーリガー石は太古の海藻に蓄積されたヨウ素を取り込んで生まれたものかもしれない。ゆ〜らゆら。) cf. 硝石とチリ硝石について(文末にヨード生産のトピック)
追記:チリ、シエラ・ゴルダ地方チャヤコジョ(カラコレス)の鉱山地域にあるサンタ・アナ鉱山で発見された。1971年に本鉱を記載したアルノ・ミュッケは、ベルリン工科大学の鉱物学教授エリッヒ・ゼーリガーに献名してゼーリガー石と名づけた。日本では当初、シーリゲル石の名で標本が出回り、次いでシーリジャー石の名で出回った。
熱水性多金属鉱床の酸化帯に二次鉱物として産し、ボレオ石、パラローリオン石、ラファエル石、シュワルツェンベルク石等と共産する。組成式
Pb3(IO3)Cl3O (,or
Pb3IO4Cl3)。他の鉱物と緻密な混合状態で産するため化学分析が出来ず、X線回折パターンの等しい合成物に拠って組成を決定した。原標本はベルリン工科大学に保管されていたが、後に行方不明になった。やはり正体の妖しい美女っぽい。今のところ目撃された産地はチリのみ。(2019.3.31)