96.孔雀石  Malachite   (コンゴ産)

 

 

私で化粧した舞姫たちは、自分が孔雀になった夢をみていたのかしら。

孔雀石 −コンゴ、ディクルヴェ産
 

 

孔雀石といえば、女王クレオパトラがアイシャドーに使った話が有名だ。エジプトでは、BC5000年頃から、シナイ半島で採れる本鉱を砕いて化粧品にしていたというから、伝統的、かつ無くてはならない必須アイテムだったのだ。極めて多量の孔雀石が美の追求に捧げられ、人々の心を沸きたたせたことだろう。

ところでその使い方はどうだったのか。粉末にして肌に乗せれば、ある程度はくっついてくれるものの、やはりパラパラ剥落する。そのままアイシャドーにすると目に入って危なっかしいし、服に付けば汚れのもとにもなりそう。
湿り気を帯びると若干の腐食性を示すので、お肌にも悪い。ファウンデーションの上から塗るとか、何か工夫があったように思える。具体的な化粧法について、ご存知の方がいたら教えてもらえるとうれしい。

鉱物を使った化粧品は、古代からいろいろあって、赤鉄鉱や、チタン鉄鉱、水亜鉛土、赤色や白色の粘土類などなど、人類は、色の鮮やかな石を拾ってきては、粉末にして体に塗りたくるという性癖があったようだ。時には、あまり体に良くないシロモノもあった。イギリスのエリザベス一世陛下の頃には、鉛の酸化物(鉛白)が、美肌化粧品として人気を呼んでいた。いわゆる白粉(おしろい)だが、これは、はっきり有害で、長年使用すると肌が荒れ、黒くくすんだり、ただれたりした。そうなると一層厚く鉛白を塗らなければならないので、さらに害をなした。晩年の陛下は、顔がこわばって見えるほど白粉を塗りたくっていたという。うっかり笑うと、白壁が崩れるので、能面のような表情を保たねばならなかった。(cf.No.525
このように、人類は、美しさを保つためには大変な苦労を厭わなかったのだ。エジプトのクレオパトラたちも、あるいは痒いのを我慢してアイシャドーを使っていたのかもしれない。

古代の化粧品では、ほかにラピスラズリも有名だ。アフガニスタンあたりで採れるこの青い石は、イラン女性御用達のアイシャドーだった。唐代には、ラピスラズリで化粧した胡姫(イラン系の美女)たちが、長安の都の酒場で、エキゾチックな胡旋を舞い、胡歌を歌って、男どもを大いに迷わせた。こちらは、あまり薬害はなかったと思われるが、非常に高価で入手の難しかったこの石を、惜しみなく化粧に使ったとは、まことに気風のいい小娘子たちであった。

化粧品に法外な贅を尽くす心理は、今も昔も変わらないといえようか。

(追記)孔雀石を粉末にして塗る風習は、エジプト人ばかりでなく同時代の西アジアに住んだシュメール人の間でも広く行われていたという。それは単なる化粧というよりも、激しい日光の直射や砂塵などが引き起こす眼病を避けるためになくてはならないものであり、眼病のために蝿などがたかるのを防ぐのにも効果的だったとする説がある。これは筆者の考え及ばない点だったが、もしそうだとすると、その頃、老若男女問わず、あらゆる人々が孔雀石で顔を隈取っていたことになろうか。

(追記2)古代エジプトの化粧品には、たいてい輝安鉱の粉末が混入しているという。これが、化粧のノリをよくする秘訣だったのか? ローマ時代には、輝安鉱を眉毛の染料に用いたというが…? cf.No.647

(追記3)プリニウスの博物誌巻11-56にいわく、「人類は上下のまぶたにマツ毛を持っている。婦人はそれを毎日染める。彼女らの美しくなろうという願望は非常に強いもので、自分たちの眼まで彩色する。」

鉱物たちの庭 ホームへ