117.ツァボライト Tsavorite/Tsavolite   (タンザニア産)

 

 

私(ツァボライト)とタンザナイト、どっちが好き?

ツァボライト(緑色)とタンザナイト(藤色)
−タンザニア、アルシャ産

 

ツァボライトはグロシュラーガーネットの一種。希産種である上、屈折率が高いため、宝石クラスの透明な石はわりと高値で取引きされているらしい。初めケニアとタンザニアの国境沿いにあるツァボ国立公園内で発見されたことから、鶏みたいな、日本人には発音しにくい名前がついた。仕掛け人は、タンザナイトなど新種の宝石を積極的に市場に送り出しているティファニー宝石店だ。

写真の標本はタンザニア側から出たもので、緑色の部分がツァボライト、その周りの紫色の部分がタンザナイト(というより灰れん石)、母岩は黒雲母片麻岩。ご推察の通り、産地はキリマンジャロ山の裾野に広がる有名なタンザナイト鉱山である。
タンザナイトには通常 0.2%程度のバナジウムが含まれており、その 4価イオンが美しい濃青色を生む。 3価のイオンは蜂蜜色を与える(No.42参考)。一方、ツァボライトには 1%程度のバナジウムが含まれ、この場合は緑色の発色をもたらすという。何価かは知らない(おそらく 3価)。

片麻岩中の大福餅型ノジュールという産状から、両者とも変成作用によって生じたことが見てとれる。生成順序としては、まず高温変成によってガーネット(ツァボライト)が生成され、その後温度が下がっていくうちに周りの水分を吸収して逆戻りするような反応が起こり(後退変成作用)、ツァボライトが分解されて緑れん石の一種ゾイサイト(灰簾石)に変わっていった。そしてツァボライトから供給されたバナジウムがこれを青く色づけタンザナイトにしたと考えられる。(参考「青いガーネットの秘密」p149)

ちなみにグロシュラーの理想化学式は、Ca3Al2(SiO4)3、灰れん石は Ca2Al3(Si2O7)(SiO4)O(OH)であるから、組成式を比較すると、3[Ca3Al2(SiO4)3]+ H2O+5CO2 ⇔ 2[Ca2Al3(Si2O7)(SiO4)O(OH)]+3SiO2+5CaCO3 
すなわち、 3(ツァボライト/グロッシュラー)+ 水 + 5(炭酸ガス)⇔ 2(タンザナイト/灰れん石) + 3(石英) + 5(方解石) となる。ツァボライトに炭酸ガスを含む(高圧)水が作用するとタンザナイトが生じ、同時に珪酸や方解石成分が放出されると考えられる。
あんこ部分のツァボライトの方がバナジウム成分に富むのは、いったん濃集した成分がその後周囲に分散したためとみればよい。

cf. No.891 ツァボライト(グロッシュラー)

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