181.ゴッシェナイト Goshenite  (パキスタン産)

 

 

ゴッシェナイト−サガール、パキスタン産

 

無色透明の「ベリル(緑柱石)」。末期のラテン語では、この言葉が「拡大鏡」の意味に用いられた。クサのニコラスという15世紀の僧正は、「ベリルスは透明な無色のよく光る石で、それに手を加えて凸面にも凹面にもすることが出来る」と書いた。ドイツ語のメガネ(Brille)はこれに由来する。ただし当時のベリルスが緑柱石を指していたかどうかは、よくわからない。

ロシアでは、ウラル産の無色のベリルが、かつてウェルナドスキーによって、ウォロビエフを記念してウォロビエウィト(ヴァラビョフ石:Worobyevite)と命名されていた。後にA.ラクロワは、バラ色のベリルをも含めて、ウォロビエウィトまたはウォロベウィト(Worobewite)の名を用いた。フェルスマンは、この石を、「これは彼自身のように楽天的なあかるい鉱物」だと記している。
しかしアメリカ人は別の名前を持っている。彼らは無色のものをマサチューセッツ州ゴッシェンに因んでゴッシェナイト、ばら色のものはニューヨークの銀行家モルガンを記念してモルガナイトとした。通称だから、どう呼ぼうとあなたの自由である。

標本、左の結晶がゴッシェナイト(ゴッシュナイト)、中央下に水晶、右は黒い電気石(Schorl)。中央上に白く濁ったベリル様の小さな結晶がついているが、蛍光してレモンイエローに明るく光る。ネットの噂によると燐灰石であるらしい。私はベリルと思っていた。区別が難しい。
No.278(六角板状結晶)。

※アメリカのゴッシェナイトは1844年にゴッシェンで、モルガナイトは1911年にカリフォルニア・サンディエゴで発見された(1902年にマダガスカルで採掘されたとの説もあり)
※2 バラ色のヴァラビョフ石は、特にセシウムを含むことで知られている。 cf. No.429 ラズベリルNo.692 セシウム・ベリル
※3 2014年に暗青色のアクアマリンのような発色のベリルが標本市場に出た(いわゆるサンタマリア・タイプの色あい)。当初ギルギット産とされたが、後にアフガニスタンのバダフシャン、Deo Darrah 産と訂正された。これらは2012年の夏にひとつの晶洞だけから出たものとされる(その後も産出があるようだが)。柱面の短いボタン状(板状)の結晶で、先に市場を騒がせた ラズベリル(ペツォッタ石)に似た形状であり、ラズベリルほどではないものの若干のセシウム分を含むため、Vorobyevite (ウォロビエフ石)または Rosterite (ロステル石)の名で売られた。今日の一般的な認識では、ウォロビエフ石はウラル産の無色の含セシウム・ベリル、及びマダガスカル産のバラ色ないし無色のアルカリ成分(Li, Na, K, Rb, Cs)に富むベリルの通称ということになっているが、ここにもう一つアフガニスタン産の青色ないし無色のアルカリ・ベリルも仲間入りしたことになる。
ちなみにこのベリルの分析を行ったミラノのペツォッタ博士は、当初その特徴的な結晶形状はセシウムを含むためと考えた。が、後にセシウム分は1%程度であることが判り、形状の所以もアルカリ分に富むため、と訂正された。いずれにしても、旧来のウォロビエフ石(アルカリ・ベリル)の範疇に入るものと考えられている。
ちなみにRosterite はイタリア、エルバ島に出たアルカリ・ベリルで 1880年に新種として報告された。命名は Grattarola により、G.Roster に因む。各種アルカリ元素を数%程度含む(セシウムは1%弱)。今日では亜種名。
アルカリ元素を含むベリルを「アルカリ・ベリル」と呼んだのはスペンサーが嚆矢である(1922)。セシウム・ベリル、ウォロビエフ石、ロステル石はいずれもアルカリ・ベリルの一種とも考えられ、これらの(定義が曖昧な)名を排してアルカリ・ベリルに統一すべき、との主張もある。

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