160.ポスンジャク石とラング石  Posnjakite & Langite  

 

 

ポスンジャク石(左側の淡緑色)−チェコ、クトナホラ産

ラング石−アイルランド、コーク、Allihies産

ラング石(柱状)とポスンジャク石(ボタン状)の結晶 
(顕微鏡下で撮影)

ラング石の結晶 (顕微鏡下で撮影)

ポスンジャク石の結晶 −スロバキア、Richtarová産
(顕微鏡下で撮影)

 

 

あまり見栄えのしない鉱物だが、エキゾチックな名前がとても印象的だ。地球化学者ポスンジャク氏に因んで、1967年に命名された。私がこの名前を知ったのは、草思社の「鉱物採集フィールド・ガイド」(草下 英明著,1982)という名著から。”栃木県小来川(おころがわ)鉱山の銅鉱物”という章に、ほんの少し出てくる。

…鮮やかな緑色で皮膜状、あるいはぼつぼつの塊になっているのは孔雀石で、そのほか、孔雀石とまぎらわしい緑色、青色、光沢ある淡青色の二次鉱物がいろいろとある。大部分は硫酸銅の一種である銅緑ばんか、珪酸ゲル(膠状体)と銅が混じてできた銅アロフェンが多いが、この中に、天青色、微小(ルーペで分かる)な鱗片状の結晶をつくるポスンジャク石、これと同質異像のラング石という珍品がある。ポスンジャク石は、私たちのグループの一人が、ここで採集し、国立博物館の加藤昭博士によって同定され、日本で初めての産出と分かった。この鉱物はその一年前にソ連から報告され、ポスンジャクとは、この鉱物の合成実験をした化学者の名前を採ったもので、日本の小来川は世界で二番目の報告だった。…

一読以来、ポスンジャクという言葉が脳裏にこびりついて離れなくなった。まるで呪文のよう。
この本は私の愛読書で、今でも恣しいままページを繰って、まだ行かない鉱物産地の(おそらく古くて使い物にならない)情報に胸を躍らせたりする。著者のわくわく、どきどきがストレートに伝わってくるので、本当に楽しい。採集派の方は当然、購入派の愛好家にとっても格好の読み物だと思う。

下のアイルランド産の画像は、引用文中、同質異像と紹介されているラング石。四角柱状結晶がわしゃわしゃ集まった比較的リッチな標本。ポスンジャク石も本来はこれに似た色(青〜暗青)のはずだが、上の標本ではやや緑がかって見える。

備考:「鉱物採集フィールド・ガイド」に載っている産地の最近の事情は、ウェブサイト「趣味の鉱物探検隊」さん(リンクあります)が簡潔にまとめられています。
補記:上記フィールドガイドによると、ポスンジャク石は「鱗片状の結晶」を作り、ラング石は、「色はよく似ているが結晶形が四角い感じの粒状」とあり、上のスロバキア産画像の私の見立ては逆かもしれない。ただアイルランド産の標本がラベルの通りなら、ラング石の方が鱗片状であろうかと思う。

補記2:アイルランドの Allihies にはマウンテン銅山という古い鉱山跡があり、19世紀に盛んに採掘されたがその後長く閉山状態にある。20世紀後半期にここを訪れた採集家たちは、かつての採掘跡を鮮やかな青緑色のラング石が覆っているのを見たという。いわゆるポストマイニング鉱物として産するものらしい。cf. No.872 (古い銅山のポストマイニング鉱物)

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