183.板チタン石 Brookite (イタリア産) |
板チタン石とルチルと鋭錐石は、いずれも二酸化チタンを成分としながら結晶構造を異にする、同質異像関係の鉱物だ。このうちルチルは、もっとも広い環境下で構造が安定しており、従って産出も多い。板チタン石はむしろ珍しい。
とはいえ、ヨーロッパアルプスの熱水脈では至るところに晶出しているので、ご当地のコレクターには根強い人気があるそうだ。地味な鉱物でも身近に採れるとなれば、自然愛着が湧こうというもの。このあたりの心情は、日本人もヨーロッパ人も変わらない。愛国心とはそういうものであろう。
板チタン石は、色や光沢、硬度、比重など、ルチルとほとんど同じ性質を持つが、結晶形やへき開には違いがある。
追記:ルチル Rutile
の名はウェルナーによって赤色の意から(1803年)。正方晶系P42/mnm。cf.
No.811
鋭錐石 Anatase は
アウイによる命名で(1801年)、一方向に長く伸びた(尖がった)八面体の結晶をなすことから(cf.
No.312)。アウイ以前には Octahedrite
等の名で参照されていた。正方晶系 I41/amd
(晶系はルチルと同じだが空間群が異なる。)
板チタン石 Brookite は 1825年に
A.レヴィがイギリスの鉱物学者
H.J.ブルックに献名した名。1822年にソレットは Jurinite
と。直方晶系。
いずれも同じ組成だが、19世紀の鉱物学はすでに面角測定による結晶系・空間群の細分を種の区分に取り入れていた。
ブレガセット山は板チタン石や鋭錐石の産地として
1890年頃から知られたところという。ここの鋭錐石はめったに
1cmを超えることがないが、板チタン石の
2cm超えは当たり前で、5cmに達するものもなくはない。画像の標本は
1995年に採集され、同年のサン・マリオ・ミン・ショーで売り出されたものの一つと思しい。2000年頃には明るい橙色の結晶も出ていた。
2010年代半ばに公園の圏内に指定され、採集が禁じられたそうだが、採掘許可を得たある個人が
2013-14年にかけて良品を採集し、サン・マリオ・ミン・ショーでお披露目したというから、絶産というわけではない。(2020.5.4)