184.チャロアイト Charoite & Tinaksite  (ロシア産)

 

 

Charoite チャロアイト

チナクサイトは、きな臭い、と?

チャロ石とチナクサイト (上は研磨面
ロシア、ヤクート地方、ムルン産

 

かつて政治犯の流刑地として知られていたシベリアの奥地アルダンから、濃淡さまざまな変彩を持つ紫色の鉱物が発見されたのは1949年のことだった。当時調査を担当した鉱物学者は、マグネシウムを含む角閃石の一種、カミントン閃石と鑑定した。
複雑に入り組んだ繊維質のこの石は、あらゆる方向に砕け易く、研磨するのは容易でないものの、うまく磨きあげると、この世のものとも思えぬ幻想的な絹糸光沢(と猫目効果)を示した。その美しさからラピダリーに好んで用いられ、花瓶や宝石箱、装飾テーブルなどに加工されている。

50年代にアルダンを調査した女性鉱物学者ベーラ・ロゴワはこの石がとても好きになり、やがて世界に類のない新しい鉱物ではないかと考えるようになった。しかし、データを集めるのに長い年月がかかり、論文は1978年になってようやく整った。その間も彼女はずっとこの石を心に留めていたらしく、1965年には共産する淡いサーモン色の柱状結晶を、新鉱物チナクサイト(Tinaksite)として世に送り出している。成分であるTi(チタン)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Si(珪素)を綴った名前だ。

上の写真は、めでたく新鉱物となったチャロアイトの研磨片。サーモン色がチナクサイト(下の写真)で、この他エジリンや長石を含むのが一般的な産状。
チャロアイト(Charoite)という名前は、ロシア語で「魅惑的な、魔法のような」を意味する言葉 Charo または Chary に由来するという説と、産地から70キロほど離れたChara川に因むという説とがある。一般に後説が支持されているが、DANA's New Mineralogy 第8版には、「Charyに由来するのであって、Chara川とは関係ない」とやけにはっきり書かれている。我らが堀博士も同感のようだ。
チャロアイトはきわめて特殊な地質条件下に生成し、世界で一箇所、シベリアのこの地方でだけ知られている。存在そのものが魔法的であるといえようか。

ムルンには少なくとも25カ所以上の採集地があるそうだが、乱採掘の結果、良質の大きな原石は供給が非常にタイトになっているという。 

補記:チャロ石が新手の貴石素材として国際市場に登場するのは1980年代末ないしソビエト崩壊後の90年代初で、大量の石材(や標本)が一気に供給された。採掘は1999年にピークを迎え、ワゴンセール扱いでキロ10ドルほどで(インドや中国のラピダリー業者に)卸売りされた。その後は急速に産量を落とし、人気の上昇と裏腹に品薄状態となっている。今日ではキロ500ドル以上の卸値がついているという。ちなみに、チャロアイト、ラリマースギライトをパワーストーン新種御三家というらしい。(2015.11.21)

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