255.エトリング石 Ettringite & Charlesite (南アフリカ産)

 

 

エトリング石(エトリンゲン石)−南アフリカ、ヌチュアニンU鉱山産

 

エトリング石(エトリンゲン石)は、ドイツ、アイフェル地方、ラーハー湖とマイエンの中ほどに位置するエトリンゲンで発見されたため、この名前がある(1874年命名)。変成した石灰岩の空隙に白色土状〜微結晶になって詰まっていた。No.254で書いたように、アイフェル地方は希産鉱物の宝庫だが、惜しいかな、藍方石をはじめ微小なものが多い。ドイツやオランダにはアイフェル・コレクターと称して、当地の鉱物を専門に集める人たちがいるが、彼らはルーペ片目に小さな溶岩のかけらをひっそり眺め、孤独な楽しみに耽るのを無上の喜びと心得ている。
しかし、一般のコレクターが好むのはやはり肉眼的なサイズの結晶で、そうなると南アフリカ産の出番である。この地では、数センチサイズの、鉄分の影響で爽やかなレモンイエローに色づいたエトリング石が出る。

南ア、カラハリ砂漠の赤い砂の下に、のべ1100平方キロに及ぶ世界最大級の堆積マンガン鉱床が広がっている。20世紀の初めに発見され、50年代半ばに本格的な開発が始まった。初期の鉱山はすでに稼行を終えたが、1973年に開かれたウェッセルズ鉱山、74年のヌチュワニン鉱山(T鉱山は終り、断層西側のU鉱山で操業)を筆頭に、マンガン鉱石を掘る傍ら、美しく珍しい鉱物標本を提供する銘柄産地として鳴る。70〜80年代に一世を風靡した菱マンガン鉱は伝説に没したものの、イネス石ポルダーバート石、ハウスマン鉱、杉石、そしてエトリング石グループの鉱物群−本鉱・スツルマン石・ソーマス石−等々、今も名品の産出を見て健在だ。

ウェッセルズ鉱山に六角柱状の黄色い結晶の産出が認識されたのは1980年前後のことで、分析の結果、新鉱物スツルマン石と発表された(83年)。その後、ヌチュワニンU鉱山から大型の結晶(10数センチ以上)が多産し、同じくスツルマン石として市場に流れたが、大部分は鉄分を含むエトリング石だった疑いが濃いという。
この鉱物の鑑定には問題が多いようで、議論の詳細は私にはちょっと理解し難いのだが、大雑把にいうと、成分中、アルミニウムより珪素の多いものはスツルマン石でなく、同じグループのエトリング石かチャールズ石に分類すべきだそうだ。これら3種は肉眼で区別がつかないし、成分組成も複雑なので、はっきり種を決めるのは難しいのが実情。便宜上、スツルマン石一本で通す例もあるが、おそらくエトリング石で通した方がまだしもであろう。
本鉱の最大の特徴は、一分子中に25〜26個もの水分子を含んでいることだ。いわば水で出来た鉱物といっていいほど。これは成分中のカルシウムイオンが水分子を引きつけ、水和状態で結晶を作っていることによる。ちょうどコンクリートが適量の水を含んで固まるのに似ている。成分を反映して、比重は1.7前後とごく軽い。ちなみに鉱物(塩)が数種類の異なる水和物を形成しうるとき、一般には最も水を多く含む水和物が最低温度で結晶する。本鉱にこの法則が当てはまるかどうか知らないのだが、結晶水を多量に含むということは、それだけ生成温度が低かったのではないかと思う。

写真の標本はヌチュワニンU鉱山のもので、小さな方解石に包まれて、とても可愛らしい。
ちなみに下の写真は、布賀産のチャールズ石。水晶に似た感じの結晶がびっしり生えて葡萄状に集合している。このグループの石の産状は普通はこんなふうに地味なもの。

チャールズ石の微小結晶集合 
−岡山県備中町布賀鉱山産

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