961.水晶 スケルタル フェンスター エレスチャル  Skeltal-Fenster-Elestial  Quartz (ブラジル産)

 

 

 

Elestial Quartz

骸晶的な成長形態を留めた水晶(スケルタル/スケルトン水晶)
背面は雲母の結晶集合塊
−ブラジル産

Elestial Quartz

成長末期的な(過飽和度の低い環境で生じる)面成長でなく、
結晶縁辺部から優先的に成長した形態とみられる。
面中央が窪んでおり、周辺は窓枠のように突き出している。
こうした形状のものを窓(フェンスター)水晶ともいう。

Skeltal Quartz

パワーストーン世界では「エレスチャル」ともいう。
窓の中に小さなおにぎり形状の曇った縁取りが見えるが
この部分は内部に空洞があると思しい。
同様に柱面などに曇った縁取りを持つ切り傷形があるが、
この部分はナイフを差し込んだように深くえぐれていたりする。
曇った部分はアルミイオンの豊富な領域か。

Mica zoned

標本の裏面
外縁と内部との間で分画した雲母
外縁の淡赤紫の部分はリチア雲母か。
以下 顕微鏡画像

結晶内から逃げ出そうとして逃げ遅れたと思しい
一連の玉すだれ状の空孔。
あるいは棒状/線状の空孔が分裂して、
一連の小球の綴りになった可能性もあるが、
その場合、小球の間隔は球の直径の2〜4倍に
収まるのが普通である。

「窓」(フェンスター)の内部に見える
おにぎり状の曇りの輪郭と三角状の負晶面

窓枠部の結晶面近くにみえる浅い水たまり状の空孔
(気泡があり液体が充填されていると思しい)
結晶が層成長機構によって成長するときは、
このような薄い水たまり状の空孔となりやすい。(cf. No.960 補記)

骸晶部の外表面に生じた模様 こうした細かな凹凸の狭間が
結晶(面のステップ)成長の遅れた部分に相当する

不定形の空孔から負晶面が成長しつつあるようだ

 

No.960にオイル入りのハーキマー型水晶を紹介したが、こちらは一般的な水入りと思しい水晶。
結晶の内部に別の成分の物質(特に液体や気体)が捕獲されるプロセスは十分に明らか、とはいえないが、ひとつには製氷器で急冷されて出来た氷の中心に白濁部が生じるように、(温度の低い)外縁から先に結晶化が起こったために内部に別の不定形物質がトラップされるような状況が考えられる。
また過飽和度の高い環境で不規則的な形状の結晶成長が起こり、その後成長の起こる前線が結晶外縁に集中する一方で、内側の空隙に別の成分(熱水)が取り残されることが考えられる。あるいはステップ的に面成長が進行する時に、複数のステップが交錯して遅速が生じて残された空間を、上層からブリッジが渡って閉ざしてしまうこともあろうし、成長末期の比較的静的な面成長においても渦巻き成長丘同士の狭間が埋められずに残ってしまうことがあろう。
機構は必ずしもはっきりしないが、実際問題としてこの種の捕獲、あるいは逃げ遅れは、えてして起こるものであるらしい(少なくとも部分的に三次元的な成長機構が必要である)。
cf. No.944、 No.948 (渦巻き成長、 PBC理論)

画像1枚目に見るように、この標本は根本の部分に細めの水晶の柱があり、その上部にかぶさるように(膨らむように)キノコ状に水晶が成長した形状となっている。上部にかぶさった水晶が成長する間、根本の柱面はあまり成長しなかったかのように見える。熱水レベルより上にあって溶媒に浸らなかったのかもしれないし、緻密な別の物質に埋もれていたのかもしれない。そういう状況を仮定するなら、根本の水晶の成長がいったん停止して、ある程度の時間が経過して漸く、上部の水晶の成長が再開されたことが想定される。二世代水晶である。
結果的に上部を覆う水晶の外形は、上方の錐面、中の柱面とともに、下方にも不完全ながら錐面の現れた両頭形状となっている。これはいわゆる王笏(セプター)水晶や松茸(マッシュルーム)水晶の出現機構に類するものと思しい。

2番目の画像は標本を少し右に回して、上方の3つの錐面が見えるようにしてあるが、左側の面は左半分が高く右半分は低く、間に2mmほどの段差がある。中央の錐面は周辺部が高く中央の面が3-5mmほど窪んでいる。ちょうど三角形の窓枠の中に窓があるような形状である。右側の面は全体に平坦である。
中央の面の窓は蝕像とも考えうるが、一般に成長が遅れた領域とされている。言い換えると、結晶の稜線(辺縁)の部分の成長が、面の中央部よりも優先して進行したための陥没であり、この種の結晶形状を鉱物学では「骸晶」(skeltal,  hopper crystal)という。標本業界では骸骨水晶(スケルトン)と呼ぶ。
骸晶は中央に向かって階段状に窪んだ結晶面である。岩波「鉱物学」は、「系全体の過飽和度が稜や隅で2次元核形成を可能にする程度に高いときには、稜や隅でできた2次元核を出発点とした成長層が、結晶面の中央にむかってひろがってゆく。こうして生まれた成長層が結晶表面をカバーしきるより早く、次々に2次元核が形成されれば、結晶面の稜に沿って平坦な面があらわれて、面の中央部は窪みとして残されるであろう。」と述べ、これが骸晶状の結晶面になる。この標本では少なくとも中央の錐面でそういう状況が起こったらしい。
不均等な成長過程を経たと考えられるこの水晶は、以下の顕微鏡画像で分かるように、至るところに「水入り」の巣が散らばっている。巣の中にはたいてい液体と気泡とが共存している。

ドイツ語圏では骸晶を持つ水晶をフェンスター(fenster 窓)水晶と呼ぶことがある。ラテン語の fenestraから来た語で、この語はさらにギリシャ語の phaino 「見えるようにする、光を与える」に遡る。すると窓水晶は、ちょうど家の窓から光が室内に届くように、外界の光が内部に差し込む領域を、あるいは新鮮な気を取り込む領域を持った水晶ということになる。窓は本来採光や換気のためのものだが、ドイツの俗信ではさらに「魂の飛び去ってゆく穴」「霊魂がとどまるところ」の含意もあるという。また窓は病気の治癒に関わり(窓の露を目の周りに塗ると目の痛みが治まると伝える)、落雷を避けるために窓にオトギリ草を差し込んでおく俗信もあった。家屋を生命や霊魂の宿る身体に見立てると、窓は目に擬えることが出来る。目は心の窓である。
そこで「フェンスター水晶」と称するときには、水晶に何らかの魂が宿り、それは窓を通じて外界と接触を持つ、という連想が湧く。窓は目であるから外界を映し込むとともに、水晶を眺める愛好家との間にアイコンタクトを結ぶ。

こういう見立てはパワーストーン世界の得意技だが、英語の「ウィンドウ・クリスタル」は米国のカトリーナ・ラファエルらがすでに別のタイプの水晶に使っているので、フェンスターには別の英名がある。エレスチャル(Elestial)という。No.953補記に書いたが、「セレスチャル Celestial」(天上的)をもじった造語である。
彼らが言いたいことは、このテの水晶は物質界の実質を体現するとともに天使的な波動に調和しているということで、その表面に刻まれた骸骨的なパターンは原初の生の完全な現れであり、宇宙の深遠な法則の顕現であるということだ。彼らはエレスチャルを約めて「エル」と称するが、エルとはかぼちゃワインの母性的な女の子でも、デス・ノートの天才的な探偵のことでもなく、神のことである。
「エルは偉大な教師であり、我らが星の僕である。ハートでありマインドでありソウルである。強烈な光の源泉である。適切に用いれば、天上的な領域に繋がり、我々のなかにある天使的な特性との間に統合をもたらす。」とラファエルは書く。ん〜、なんのこっちゃ。

cf. No.271 岩塩(骸晶)   No.962 水晶(骸晶 続き)

鉱物たちの庭 ホームへ