329.ヘキサゴナイト Tremolite var.Hexagonite (USA産) |
アメリカのニューヨーク州には接触変成岩が広域に分布しており、以前は複数の滑石(タルク)鉱山が稼動していた。石綿の害が世界的に取り沙汰された1970年代、この地域でも鉱山従事者や住民に肺ガン・皮腫患者が異常に多いことが問題になった。
調査の結果、塊状の鉱石中に繊維質の透閃石(あるいは直閃石)が含まれていることが判明した。住民はこれをアスベスト(石綿)と呼び、鉱山側は(青石綿などの)いわゆる有害なアスベストにあたらないとの見解を示した。
しかし問題は鉱物学的な定義でなく、健康への影響である。やがて鉱山は閉鎖された。
この地域には淡紫色の透閃石が産出し、ヘキサゴナイト(六角石の意)と呼ばれている。結晶断面が六角形に見えるからで、発色は微量含まれるマンガンに起因する。稀に数センチ長さの柱状結晶が成長して(母胎の紫色粒状〜層状塊もヘキサゴナイト)、数カラット程度の美しい宝石にカットされることがある。
また、すっきりした緑色の亜種も産出し、こちらは含有クロムが発色要因となっている。
これらの標本は、暗闇で擦ると、オレンジ〜黄色の閃光を発する。微かな光なので、まだ数えるほどしか見たことがないけれど、火打石のようでヨイ。摩擦や衝撃によって生じる蛍光現象はトリボルミネッセンス(Triboluminescence)
と呼ばれる(→鉱物とルミネッセンス)。
手にささると抜けにくい性質が「楽しい鉱物図鑑」によってよく知られているが、肺に刺さっても当然抜けにくいはずなので、あまりのん気に擦っていられない気がする…。ちなみに、手元のクロム透閃石は紫外線で黄橙色に蛍光する(→蛍光:透閃石)。
補記:Hexagonite の名は 1876年に E.ゴールドスミスが与えた。以来、バルマット地域に点在する滑石鉱山では美しい紫色の本鉱が名物となっているが、MR誌によると、同様のものは世界のどこにも報告されていないそうである。