371.ラピスラズリ Lapis Lazuli (タジキスタン産)

 

 

ラピスラズリ -タジキスタン、パミール高原産

ラピスラズリ(タンブル) 
白色の透輝石(斑状)、黄鉄鉱、雲母を伴う
−タジキスタン、パミール高原、パミール・ラピス鉱山
(海抜6,800mポイント)

 

鉱物愛好家待望の書、フェルスマンの「石の思い出」の新訳がさきごろ刊行された。訳者はもちろん堀博士。昨年の夏は箱根に篭って推敲にあたられ、かつて「若気の至り」で引き受けられた(?)翻訳を数十年ぶりにやり直されたという。
鉱物への情熱を一流の経験と知識とで支えた筆運びは、やはり他をもって替えがたい魅力に溢れる。

新版では旧本にない章が2つ加えられた。そのひとつは、世界の屋根、パミール高原の高度5000メートルという高地に産する青い石に捧げられている。
ラクスマンがバイカル湖の近くにロシア初のラピスラズリ産地を発見して数十年、明るい青のラピスに憧れたロシア人は、古来有名なバダフシャンの鉱床が、自国(ソビエト連邦)領土内に支脈を伸す地点をついに探りあてた。 
それは地元の人々の間で、谷の奥のどこかに青い石があると語り伝えられていた山であった。
1930年、鉱物学者たちはイシュカシム山脈の東斜面をボダム川に沿って辿り、さらにシャフ・ダラ川を遡った。そして困難に満ちた探査行の末、崖から崩れ落ちた大理石や片麻岩の中にラピスラズリの岩塊を発見したのだった。
翌年には氷河が支配する急峻な峡谷と希薄な空気とに遮られた隔絶の地にラクダの道が通り、約6トンの石が運び出された。またユーディン、ハバコフ、ラクニスキーといった人々の手で Lyadzhvaradara リャジバルダルの鉱脈に関する研究がまとめられた。

以来、どのくらいの石が採掘されたのかよく分からないが、最近では1990年に調査報告があるし、私が知っている範囲では数年前からカボッションに磨いたルースがときどき日本の市場に出回っている。色のごく淡いものから明るく鮮やかな青、バダフシャン産によく似た濃紺のものまでいろいろなタイプがある。なおパミール高原には、ほかにもゴロンダラ、ダルシャイ、アブカルフ、イシュカシムといった地域に小さな鉱脈があるそうだ。
(2004年には米、仏資本のベンチャー企業が設立されて、タジキスタンでの採掘〜原石の販売を始めている。下の画像はその会社からいただいたサンプル。代表者によると、パミールに鉱床は1ケ所しかなく、Lyadzhvaradara とは「青い石」の意味、イシュカシムは山の反対側斜面のアフガン国境付近の小村、ゴロンダラ、ダルシャイは鉱床であるペグマタイトの名称だという⇒パミール・ラピス鉱山がある)

「石の思い出」の口絵に、パミールのラピスラズリは通常の等軸晶系ではなく、斜方晶系に属するとコメントがある。堀博士に聞くと、この産地の標本はすべて斜方晶系と思っていいそうだ。また、ラピスラズリにはほかに三斜晶系のものもあると教えていただいた
(その色は白色だとDana 8th にある)。

cf. ヘオミネロ5

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