410.玉滴石 Hyalite (日本産)

 

 

hyalite

玉滴石 −富山市立山温泉新湯産

魚卵状たんぱく石 −鹿児島県姶良郡牧園町坂下産
(温泉沈殿物)

 

Hyalite(ハイアライト)は真珠光沢をみせる滴状のオパールだが、その滴のひとつひとつが丸い玉となって分離していたり、あるいは玉の形を留めながら、魚の卵のようにくっついて塊になったものがある。たいてい温泉の沈殿物として生じ、小さな砂粒などを核にして、まわりをオパールがとり巻いている。上の標本のような感じのもので、Siliceous Oolite (魚卵状珪石・たんぱく石)とも呼ばれて、日本各地の温泉に産する。なかで、ガラスのように透明度が高く、粒が揃ってもっとも美しいと定評なのは、100年ほど昔、富山県立山温泉の新湯で採れた「玉滴石」だ。
新湯の「玉滴石」が知られるようになったのは、1890年〜1900年代にかけていくつかの論文や紹介文が発表されたからだが、実は当時すでに現地を探しても見つからなくなっていたという。

1906年初版の「鑛物界之現象」を引くと、「たんぱく石の一種にして、小形美麗なるガラス球の如き状をなせり。越中国立山なる新湯温泉の湯壷中に産するものは最も有名なり。米粒または粟粒大の円粒にして、これを破砕すればその中心に微小なる砂粒を含むこと常なり。これ水中に溶けたる珪酸がその水中に在りて、噴出するガスのために絶えず動揺せる砂粒を核とし、その周囲に沈殿付着して生じたるものなり。純粋なるものは無色透明にして、不純なるものは往々黄色を帯ぶ。しこうして右の円粒は多数相結合して塊状を示すこと多く、この塊は容易に砕けて粒々相離るるものあれど、ある種類にては各粒緻密に相応合して半透明の一塊となり、わずかに粒状の紋を残すに過ぎざるものあり。ただしこの立山の球滴石は数年前よりほとんど産せざるに至れりという。」と記されている。

新湯は安政5年(1858年)の飛越地震までただの冷たい池だったのが、地震を契機に蒸気と硫黄を発する熱湯に化した。直径30mの火口の底から湧き出す湯は湯温70度、酸性度pH3。珪酸分が豊富で、これに加えて湯が外に流出しにくい地形にあることが玉滴石に幸いしたとみられる。湯がよく攪拌される付近の水辺に産したらしいが、都合のよい条件が整ってから採り尽くされるまでのほんの数十年間で成長したものと考えられる。

それなら、数十年経ったら、また新しい玉滴石が出来ているのではないか。
その通り、1986年、地元の研究家が1世紀ぶりに新湯の水辺で玉滴石を採集された。ただ環境条件が変化したのか、美しさは往時のものに遠く及ばなかったらしい。それでもまた何十年か待てば、美しい玉滴石を見られる日が来ないとも限らない。只管打座。待て。

(補記)秋田県の秋ノ宮温泉に産するものは「ブリコ石」(ハタハタの卵のような石)と呼ばれて天然記念物になっている。
益富「原色岩石図鑑」(1987)には、福知山市梅谷に産する「オーライト石灰岩」について、魚卵状・鮞状(じじょう:魚へんに而、はららご、はらごと訓読みして魚の卵の意)と呼ぶ、と載っている。石灰質の小粒が類質の石灰質石基中に密集して含まれるもの。
(補記2)益富翁によると、この種の玉滴石を漢名で「白玉髄」と呼んだらしい。cf.No.742
ちなみに新湯産玉滴石が学界で話題になった頃、神保博士は玉髄または珪石とし、篠本博士はこれを否定して蛋白石とした。
(補記3)立山産の玉滴石には「山姥の握り飯」の俗名があった、と春山行夫が書いている。往年には握り飯ほどに集合した塊が採れたのだろうか。
石亭「雲根志」に「山姥餐」(やまうばのにぎりめし)があり、当時の越中立山は山深く道に迷いやすいので登る人はほとんどいなかったが、近年「地獄巡り」と言ってわざわざ登る人が出てきた、と述べている。地獄谷では常にない不思議な出来事に出逢うという。ある旅人が谷で、割られたように裂けた大石を見た。中に何かが詰まっているようで、案内に尋ねると「山姥の握り飯」というもので、たまに谷川に流れているのが見つかると教わった。無数の粒がひと塊になっていて、色は白く丸く透き通っていて、大きなもので指頭ほど、小さなものは胡麻粒ほどで大変美しかった。
石亭も安永元年(1772年)に戴いた物を所蔵していた。当時はまだ新湯は出来ていないから、新湯以外の場所でも同様のものが生じて、谷川の転石として拾われることがあったと考えられる。「天狗の握り飯」とも呼んだ。

ちなみに和田維四郎が蒐集して三菱合資会社が譲渡を受けた三菱鉱物コレクションには、10x6x5cmサイズの魚卵状に集合した玉滴石(2mm径の小球体)があり、珪質オーライト、魚卵石と標識されていた。⇒ シルバー生野2

立山産、姶良郡産とも、丸粒が多数くっついて「魚卵状」に積層し、バラけると画像のような分離粒となるらしい。

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