409.玉滴石 Hyalite (チェコ産ほか)

 

 

hyalite

ハイアライト−チェコ、Waltsch(読めん〜)産

青く色づいた玉滴石 -USA、NM、ジャニタ鉱山産

フィオライト(花の石) −イタリア、トスカーナ、サンタ・フィオラ産

 

珪酸分を含む飽和溶液(熱水)の温度が下がってゆくとき、なんらかの理由で晶出がうまく進まないと、溶液は次第に膠状化して粘りを増し、溶質である珪酸分子は自由な運動が出来なくなる。エネルギー的に規則正しい骨組みを作る能力を失い、やがてオパールとして固化する。(オパールが「固体」だという意味ではない)

ハイアライト(玉滴石)はオパールの一種で、特に粒状〜ぶどう状の透明感のある小さな塊が集合した外観のものをいう。その表面は空間にむかって形成された自由面だが、水晶のような結晶構造を持たないため球形〜不定形となる。上の標本など、いかにもネバっこい蜜の滴が垂れて、てんこ盛りに盛り上がった風情をみせている。

中の標本は青く色づいたハイアライト。オパールがさまざまな色を帯びる例はNo.380に見た。
この石は今は標本の扱いをやめてしまったあるお店がツーソンで仕入れた品で、当時、売りものにするか自分のコレクションにするか迷っておられた。欲しいといっても、「もうちょっと手元においておきます」とか言いながら、店のショーケースに飾っていた。(本当はそのテのものはお客さんの目に晒さず、秘して語らないのが正しい姿勢デスヨ)
しばらくたって、もう一度アタックがてら遊びにいくと、店主は留守でパートさんが店番をしていた。件の石には値札がついて、黙って買って帰るのはたやすいと思ったが、私はときどき紳士だから、「前に来た時は迷ってたみたいだったけど、値札ついてるから売るんだよね?」と成り行きを話した。パートさん、「無断で売ったら怒られるかも…」と躊躇い、店主を電話に呼び出してお伺いを立てる。
と、店主、「そんな石あったかなあ、まあいいよ、売って。」と言った。
気を持たせたわりにあっけない幕切れじゃ。

下の標本は、イタリア、サンタ・フィオラに産する石で、火山性の石灰華の表面に滴状(豆状)のオパールが付着したもの。透明で真珠のような光沢をもつ。かつて Fiorite(フィオラ石)と愛称された、いわば歴史的サンプル(一種の原産地標本)。因みにサンタ・フィオラは聖なる花(サンタ・フィオーレ)の意味と思われるので、フィオライトは「花の石」の連想を含むと思われる。
似たような産状の石は日本でも各地に知られている。(⇒次項に続く)

参照:No.377(オパール)

補記:上の標本の産地 Waltsch はドイツ語名で、チェコではValec ヴァレッチェという。ボヘミアのカルルスバートの東南25km にある村で、付近の火山岩丘の空隙に産するものらしい。遅くとも 19世紀半ばには産状が知られていた。今日も現役で息の長い産地だ。短波紫外線で緑色に光るのは、微量のウラニルを含むためか。
飯田博士のエンサイクロペディアに同地産と思しい透明オパールが載っているが、火口の噴気孔から噴き出した水蒸気から生じたものという。ガラス状の外観から「ミュラーズ・ガラス」「ガラス・オパール」と呼ばれるそうだ。
ブラウンズ/スペンサーの「鉱物界」(1918)には、ハイアライト/ガラス・オパールの項にヴァレッチェ産の透明種が挙げられ、これによく似ているが透明度が乏しく、真珠様の光沢を示すものとして、フィオライトが紹介されている。(2022.1.1)

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