515.斜灰簾石 Clinozoisite (メキシコ産ほか) |
(※)この標本はピエモンテ石、ゾイサイト(灰れん石)、チューライト(桃れん石)、
エピドート(緑れん石)などの名でも出回っている。
緑れん石(エピドート/エピドット)、斜灰れん石(クリノゾイサイト)、灰れん石(ゾイサイト/黝れん石)といった鉱物は、まあなんだかよく分からない。
例えば上の標本だが、私が購入したものは斜灰れん石のラベルがついていた。でも、同じ産地の同じような標本が(別の業者さんでは)緑れん石として売られていたり、灰れん石として売られていたりするのを見てきた。桃れん石だったこともある。これはおそらくきっと多分、どれが正しいという問題ではなく、そのどれもがこの球果状に集合した紅緑の結晶中に含まれていると考えるべきなのだろう。
緑れん石グループに属する一群の鉱物は、ひとつの結晶の中でも組成が変動していることが多く、厳密に言えば結晶内部の微小な領域ごとに種が変化している例も珍しくないからである。
また種名の定義が(長い間)わりとファジィだったということもいえそうだ。緑れん石グループは、近年EPMA法に基づく厳密な分類基準が提示されているが、素人には分かりにくいし、多分まださほど広まっていないように思われる。(cf.
リンクしている「Mimの鉱物コレクション」さんのコラムNo.34に詳しい分類が提示されています
⇒サイトがクローズされたため、補記に簡単に分類を示す)
手元の図鑑類に従って説明すれば、斜灰れん石はカルシウムとアルミニウムの水酸珪酸塩鉱物であり、これと固溶体を形成し、アルミニウムの一部が鉄に置き換わってゆく端成分の種が緑れん石になる。透明なものは多色性が顕著である。緑れん石は暗いオリーブ色あるいはピスタチオのような鄙びた緑色をしているが、鉄分が少なくなるほど色が浅くなり、斜灰れん石では淡褐色〜灰色を示す。
このシリーズは単斜晶系の結晶構造を持つが、斜灰れん石と同質異像の関係にある斜方晶系の種が灰れん石である。緑れん石と同質異像の関係にある斜方晶系種は、Dana
8th等を翻いても該当するものが見当たらない。
古くから知られた鉱物グループなので、同義名や野外名(現地名など)が数多くある。ピスタサイト(緑れん石)、ピエモンタイト(紅れん石)、アラナイト(褐れん石)、チューライト(桃れん石)、タンザナイト(灰れん石)、グリーン・タンザナイト、アニョライト、トーモー石などがよく知られている。
チューライト(桃れん石)はマンガンを含む灰れん石の亜種と説明されることがあるが、もともと分類の根拠は成分でなく、単にその赤っぽいピンク色にあるようだ。語源はこの種の石が採れるノルウェイの地名チューレ。ちなみに今日では斜灰れん石が桃色になったものもやはりチューライトと呼ばれている。
ピエモンタイト(紅れん石)は緑れん石の鉄やアルミニウム成分(Fe>Al)がマンガンに置換された種で、暗いマルーン色をしている。ここで(Al>Fe)の斜灰れん石であってマンガン成分が優越しているものはチューライトなのではないか?という疑問が湧くのだが、この範囲の鉱物種は定義されていないようである。
アラナイト(褐れん石)はセリウムやランタン、イットリウムなどを含む緑れん石で、ほかの希土類元素を含んでいることもある。トーモー石はもとはクロムを含む亜種ということで命名されたが、追証試験によるとクロム分はクロム鉄鉱が混在するためであるらしく、定義はややあやふやである。
中の標本は一般的な色あいの斜灰れん石。この色が緑色がかってくると緑れん石と呼ばれる(成分分析されない標本は、一般に色目や多色性によって分類される)。
下の標本は緑色塊状の灰れん石。ルビーを含むことからルビー・イン・ゾイサイトの名がある。タンザニアの特産品で、マサイ族の言葉アニョリ(緑色)に因み、現地ではアニョライトと呼ばれている。よく置き物などに彫刻されている。産地はケニア国境に近いロンギド村より西方90キロにあるムンダダラ鉱山、と近山大事典は述べる。
益富「原色岩石図鑑」(1987)によると、母岩の淡緑色部分はエデン閃石で、灰れん石は暗緑色の部分というから、ルビー・イン・エデナイトとする方が実情に近いだろう。変成岩であり、図鑑では「コランダム・エデナイト・ゾイサイト・シスト(片岩)」の名称で呼ばれている。
補記:緑簾石スーパーグループの中に次の4つのグループがある。斜灰簾石(単斜灰簾石)グループ、褐簾石グループ、ドレイス石グループ、 Åskagenite
グループ。
斜灰簾石、緑簾石(エピドート)、紅簾石(ピエモンテ石)は斜灰簾石グループに入る。緑簾石スーパーグループの鉱物はすべて単斜晶系である。以前はこれに斜方晶系の灰簾石(Zoisite)も含まれていたが、現在(2015)は外されている。
因みに斜灰簾石の組成には2ケのカルシウムが含まれるが、一方がストロンチウムに置換された斜灰簾石-(Sr)が2001年に記載された。
補記2:草下英明によれば、「昔からの習慣で」、光学性負のものを緑れん石、正のものを斜灰れん石と分けた。しかしその検査には偏光顕微鏡が必要でアマチュアには難しいため、便宜上、緑色のものを緑れん石とし、灰色・黄色・桃色など淡色のものを斜灰れん石と分けたという。