524.硫酸鉛鉱 Anglesite (モロッコ産) |
りゅうさんえんこう、または古い本では、りゅうさんなまりこうと呼ばれる鉛の硫酸塩鉱物である。鉛の硫化鉱(方鉛鉱)が酸化して二次的に生じる。鉛鉱床の上部酸化帯に普通に見られ、変成を受けた方鉛鉱の周りを同心円状に取り巻いたり、空隙の周りを縁取ったりした産状が知られている。方鉛鉱の仮晶を作ることもあり、ときに硫黄の結晶を伴うこともある。わりとダイレクトに変成が行われるものらしい。旧く Bleivitriol (硫酸鉛)と呼ばれたもの。
硫酸鉛鉱は容易に風化して白鉛鉱に変質する。脈状〜クラスト状の白鉛鉱が硫酸鉛鉱の塊や結晶を覆ったりしている。
鉛成分がわずかにバリウムに置換される例が報告されているが、硫酸バリウム(重晶石)とは基本的に別種の鉱物で、両者が共産していることがある。こうした産状により白鉛鉱や重晶石と間違えられやすい。軟らかく重たいことも、この3者に共通の性質だ。硫酸鉛鉱は硬度3、比重6.3。熱塩酸で発泡しない点が白鉛鉱と異なり、比重4.2の重晶石よりさらに重たい点が鑑別の目安となろうか。硝酸にゆっくり溶け、アンモニウム・アセテートには容易に溶ける。
上の標本は、モロッコ産の黄色い結晶で、20年ほど前には定番だったもの。最近は市場で見る機会が減っているように思う。下の標本は、方鉛鉱に(おそらく熱水が作用して)生じた空隙に、硫酸鉛鉱が結晶した様子がよく分かるもの。くすんだ黄色の粉末を伴っているのは、マシコット(β-PbO)だろう。
本鉱はウェールズ州アングルシー島のパリーズ(Pary's)鉱山が原産地で、学名は島名に因む(1832年ビューダン)。この島は今も良品を産するという。イギリスの古い鉱山はたいていローマ人が侵入した時代に採掘された形跡がある、と言われており、アングルシーもその例に洩れないらしい(鉛を採った?)。ただローマ人が去って以降は長らく忘れ去られていた場合がほとんどで、この島も本格的に鉱山が活況を呈するのは18世紀以降のことだ。1689年、従来独占的に行われていた鉱山経営を否定する「Mines Royal Art」が発布され、事業への参入が自由化された。そしてコーンワル州、デボン州、ウェールズのアングレシー島に豊かな銅産が発見されたことにより、イギリスは一躍、産銅産業の雄となるのである。
cf.イギリス自然史博物館の原産地標本(アングルジイ島、パリーズ鉱山産)